課長 島耕作

1992/10/04 日本劇場
田原俊彦が有能なサラリーマンに見えないのが最大の欠点。
会社は遊び場じゃないんだぞ。by K. Hattori



 原作はコミック・モーニングで連載された人気マンガ。原作の読者は話を知っていると思うが、未読のかたでこの映画を観ようと思っている人がいたら、以下の文章はスキップしてください。

 日劇東宝で上映する映画だが、初日には舞台挨拶があるということで日本劇場での上映。僕は12時20分の回を観ようと思っていたのだが、入場した途端、舞台周辺の人集りに唖然とする。窓口には「座れます」と表示があったが、席はほとんど埋まっているし、立ち見もいるほど。しかし、これらの群衆は舞台挨拶が終わってしまうと潮が引くようにいなくなった。何のことはない、舞台挨拶目当ての客と1回目の上映の客、僕を含めた2回目の上映に入った客で、館内は数倍の人込みになっていたのだ。

 2回目の上映では、客の入りは2〜3割程度。その7割は女性客。明らかに田原俊彦の映画としてこの作品を観ている。豊川悦司が田原に愛を告白するシーンで館内は爆笑。佐藤慶が泣くシーンでも、客席はクスクス笑いに包まれた。これじゃ原作のファンは形無しだ。

 この映画では(時間の制約はあるにせよ)、登場人物たちが仕事らしい仕事をしているシーンはほとんどない。ひたすら、企業スパイの捜索、派閥争い、インサイダー取引、ライバルのあら捜し、崩壊した家庭生活、ベットシーンなどに明け暮れる。仕事をしていないのは主人公だけではない。主人公の部下たちも、上司の「仕事しろ」という言葉に耳を貸さず、ひたすら社内人事の予想をネタにしたトトカルチョに熱中する。なんて会社だ。

 これは単に、原作のエピソードをつなげたダイジェスト版である。脚本段階で、もう少しエピソードを間引いたほうがよかったかもしれない。前半のスパイ事件のエピソードは必要ないと思うのだが、どうだろうか。インサイダー取引の話も、話に厚みをだすには至っていない。

 原作の魅力は、エピソードの魅力以上に人物の魅力だった。映画はエピソードに重点を置きすぎで、人物が描けているとは思えない。残念。

 主演の田原俊彦は、役者としては三流だと言うしかない。表情が硬い、口跡が悪い、スタイルも良くない。特に口跡の悪さは致命的だ。どこでどんな台詞を言っても一本調子だし、しかも何を言っているのか聞き取りにくい。このキャスティングは明らかに失敗だったと思う。テレビならともかく、映画の画面に田原俊彦は向かないのだ。

 周囲に芸達者な役者を揃えてはいるが、腹心の部下が坂上忍と渡辺満里奈とは情けない。この程度の作りなら、最初からテレビの特番(ドラマ・スペシャルなど)かオリジナル・ビデオにでもすればよかったのだ。テレビでなら、この作品は結構観賞にたえるだろう。

 田原俊彦を主演に据えたアイドル映画、というのが僕の印象。原作のファンは幻滅すること請け合いだ。画面がやたら暗いのも気になった。



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