天国の大罪

1992/10/19 丸の内東映
「私こんな役もできるんです」という吉永小百合の自己満足。
映画の存在自体がもはや「大罪」である。by K. Hattori



 日曜日の2時からの回を観た。場所は丸ノ内東映。客席は8分の入り。中年以上の客がほとんどでした。休日だってことを割り引いても、日本映画としてはまずまずの入りじゃないかな。

 映画の舞台は、ごくごく近い未来。外国人労働者による一種の租界とかした東京・新宿、そこにできた外国人による犯罪組織、それを取り締まろうとする日本の検察の物語。登場人物は3人。中国系マフィアのボス、東京地検特捜部の検事、その部下で愛人の女検事。マフィアのボスにはオマー・シャリフ、検事に松方弘樹、愛人に吉永小百合。吉永は松方の子を宿し、松方と別れたのち子供を産み、さらにシャリフの情婦となる。物語は吉永の視点で語られる。

 これだけ書くと実に面白い素材なのだが、映画はちっとも面白くない。演出以前、脚本段階での欠点をいくつかあげる。

  1. 外国人労働者の描き方が古くさい。これは映画制作中にバブルがはじけ、外国人労働者の立場は、バブル期とは大きく様変わりしてしまったことが原因だろうが...。
  2. 検察と警察がベタベタしすぎ。検察官が警察と一緒になって犯罪捜査や犯人の逮捕をすることなんて、あるんでしょうか。
  3. 「ひどい殺しかたです。日本人の手口じゃありません」「この顔にはラテン系の血が混ざっている」「あんな外人の年寄りがいいのか!」など、あからさまに差別的な台詞が飛び出す。全体的に外国人労働者対して否定的な描写に終止し、その背後にある社会状況まで踏み込んでいない。外国人による組織売春などの身近な素材を避け、麻薬という使い古された材料に逃げてしまった。
  4. オトリ捜査で捕まえた強姦犯人だが、起訴するために必要な被害者が現れない。そんな馬鹿な。被害届も出ていないのに、なぜオトリ捜査に踏み切れたのか。
  5. 日本には司法取引の制度がないはずなのに、それが堂々と行なわれる。これは裏取引って言うんじゃないの?
  6. 子供を誘拐されて警察に報告しないのは不自然。警察があてにならない、何らの説明は必要だと思う。


 まだまだあるんですが、脚本についてはこの辺りでやめとく。次は演出について。

  1. 前半の吉永小百合の馬鹿さ加減にはあきれる。口を半開きにした虚ろな表情は、見ていてもイライラする。子供が産まれて少しはマシになったと思ったら、誘拐事件の時の狼狽ぶりで帳消し。
  2. ラブシーンのリアリティーのなさ。セックスもキスも、ちっともいやらしくない。突き出した唇を押し付けあうだけのキスシーンにはウンザリ。いかにもオザナリなんだよね。胸に手をあてて髪の毛を振り乱せばセックスしてるように見えるとでも思っているのだろうか。日本映画のラブシーンは、昭和30年代から進歩してないんだ、きっと。(これは『未来の想い出』でも感じたことだけどさ...。)
  3. 中国語、英語、日本語のチャンポンはやはりヘン。西田敏行が中国人? ウソ!
  4. 吉永小百合とオマー・シャリフが愛人関係にあるようには見えない。オープニングの松方とのラブシーンを削って、シャリフとのベットシーンを挿入すべきだった。
  5. 2部構成にした理由がわからない。2部構成にするのなら、吉永が検察を辞めたところで第1部を終わらせるべきだと思う。「それから1年がたった」はないだろ。
  6. 電話ボックスのシャリフの台詞。しゃべっている声が聞こえないのに、字幕だけが出るのはおかしいぞ。


 根本的なことだけど、はっきり言って吉永小百合って下手くそじゃない? それを言っちゃ〜おしまいですかね。『外科室』の貞節な奥さん役も今回の敏腕女検事も、表情が同じなんだ。古くからのファンはともかくとして、このままでは吉永小百合に新しファンがつくことはないと思う。



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