眠らない街
新宿鮫

1993/10/26 丸の内東映
真田広之を食ってしまう奥田瑛二の素晴らしい芝居。
犯人役の浅野忠信にも注目。by K. Hattori



 オールナイト上映で眠ってしまったので、結局2度映画館に行く羽目になりました。

 土曜日のオフでも話題になっていたんですが、この映画は映画としてはちょっと弱いところがあると思います。まだ原作を読んでいないので比較して何かを言うことができないんですが、主人公の行動の動機づけが弱いと思うんです。もちろんこれは映画の中でもきちんと説明されるんですが、それでも僕にはいまひとつ納得ができなかった。鮫島があくまでも警察というワクの中で、それこそ命を賭けて行動する必然性が、僕には伝わってきませんでした。結局、本来物語を突き動かすはずの原動力が希薄なのです。

 ところが、僕にはこの映画がすごく面白かった。ワクワクしながら観た。すごくドキドキした。僕が見たところ、この物語の求心力になっているのは敵役の木津という男です。奥田瑛二演ずるこのゲイの密造銃マニアには、有無を言わせない迫力と説得力があったと思います。物語の前半から中盤までを引っ張って行くのは間違いなくこの男の存在感だと思うのですが、その証拠に、この男が舞台から消えた後は物語の魅力が半減します。(もっともこう思うのは僕だけかも知れません。)

 木津のもとから脱出した鮫島が晶を訪ねるシーンが話題になっていましたが、僕はこのシーンが本当はこの映画の要になるシーンだと思います。互いにひとりで突っ張って生きて来た二人が、お互いに誰かにもたれかかる必要を感じたとき、その場にいたのが鮫島であり、晶だったのだろうと思うのです。鮫島の態度はあまりにも身勝手で我が侭だとは思うけど、男なら何となくわからなくもなかったりするんですよね、あのシーンって。男が身も心もズタズタに傷ついたとき、それを癒せるのは結局女だけなのかも知れない。単純で傲慢で身勝手な言い草かも知れないけれど、あそこで鮫島に晶がいなければ、彼はあの痛手から立ち直れなかったかも知れないと思う。鮫島にとって幸福だったのは、晶が正面から鮫島を受け入れてくれたことですよね。あそこで晶に拒絶されていたら……。俺なら自殺しちゃうよ〜〜。

 晶の部屋でクスリを見つけて荒れ狂う鮫島。泣きべそをかきながら、オロオロとそれを見つめることしかできない晶。鮫島は自分の弱さは晶に見せても、弱さを見せた晶が我慢できない。なんて我が侭で自分勝手なんでしょう。でも、そんな男の我が侭さえもしっかり受けとめてしまう晶は強い女です。彼女は鮫島と出会ったことで、そして鮫島の弱さを見たことで、それまで以上に強い女として生きていくことを決心したのだと思う。彼女は自分に向けられた鮫島の我が侭な期待に応えるべく、泣きながら「眠らない街」を完成させます。結局この出来事が、鮫島と晶との絆を強めたのだと思うし、鮫島の「晶は俺の女だ」という宣言に「ホントよ」と答えられるきっかけにもなったのだと思うんですが……。どうでしょうか。

 というわけで、物語のキーになるはずの鮫島・晶のラブシーンなのですが、残念ながら僕には鮫島・木津のからみの方が強烈な印象を残しました。(そうでない人なんているんだろうか……。)木津が鮫島を見つめるウットリとした目つき。鮫島の、恐怖と恍惚の入り交じった表情。あのシーンには言い様のない魅力があります。このシーンの濃厚さが、結果として他のシーンの印象を希薄にしてしまった気がします。木津はこのシーンを最後に姿を消しますが、この後の物語を引っ張って行くのは木津の形見になってしまった変造銃です。木津自身は姿を消しても、木津の影は最後の最後まで映画の中に濃密な空気を作り出します。

 映画の主人公は鮫島と晶でしょうが、この物語を脚本以上に魅力的にしているのは木津要という男です。僕はこの役柄に『ブレードランナー』のロイ・バッティ(ルトガー・ハウアー)と同様の印象を持ちました。ルトガー・ハウアーのいない『ブレードランナー』が考えられないのと同様に、木津要のいない『新宿鮫』も考えられません。(そう言えば、『ブレードランナー』のオープニングはロイ・バッティから始まったし、『新宿鮫』は木津の作業場のシーンから始まります。これは偶然というより、意識したものではないのかしら……。それともハードボイルドものの定石なんでしょうか。)

 P.S.
 木津の部屋は、僕の買い物ゾーンにある。鮫島が木津の乗った船を追いかけるのは深川の大横川で、細い川から隅田川に出た船を見送るシーンで、画面に永代橋が映っていないことがこれを立証する。目の前には大川端リバーシティー(石川島・佃島)、そして中央大橋(この橋の右手に僕の住んでるトコがある)。永代橋と佃島の間にある川は大横川しかない。さらに細かいことを言えば、門仲の交差点を通過した形跡がないので、木津部屋は永代,門前仲町,牡丹のどこかにあるはず。この辺りについては、僕より詳しい人間がFMOVIEには存在する。

 木津があのまま東京湾まで出てしまうのかと思いきや、木津の作業船は晴海運河の相生橋と春海橋の間あたりにに浮かんでいるらしい。(木津の作業船の後に見えた真新しいビルは、クリスマスになると窓をクリスマスツリーの形にともします。)

 あら、ビックリ。新宿以上にご近所が舞台だった。歌舞伎町で観たとき、映画の中盤で寝てしまったのは不覚だった……。



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