虹の橋

1993/10/29
和久井映見主演の江戸時代を舞台にした青春ドラマ。
芝居も美術も音楽もなにもかもが素晴らしい。by K. Hattori



 僕はこの映画を2,3週間ほど前に観て、とっても感動して、すぐに会議室に書き込もうと思ったんだけど、書き込むまでに考えを整理しようと思ってて、結局今も整理のつかない感動だけが僕の胸の中に残っていて、で、普段ならどこか切り口を探してそこから映画について考えたり書いたりしているのですが、今回は全く観整理のまま、ダラダラと書き散らしますのでご容赦ください。

 まず、とってもきれいな映画です。セットや小道具のはしばしにまで目が届いていて、とても丁寧に作られている印象を受けました。

 とっても地味な映画です。時代劇ですがチャンバラじゃないし、ただひたすら長屋の住人達の喜怒哀楽が淡々と描かれています。山中貞雄の『人情紙風船』に似ているかも知れません。

 とっても贅沢なキャスティングです。主演の和久井映見も、いつになく激しい演技を見せます。僕はこの女優さんが決してうまいとは思わないのですが、今回の彼女はとても輝いてみえました。他にも芸達者な役者さんが総動員です。

 とっても印象的な、忘れられないシーンがいくつかありました。商家の並ぶ通りを俯瞰でとらえ、そこに雨が降り始めるシーン。道を行く人々が一気に路地から消え、やがて屋根の下から傘がひとつずつ現れるシーンは見事。タイミングが絶妙で、鳥肌が立つような快感があります。

 とってもお客さんが少ないんです。僕は日曜日の最終回を池袋で観たのですが、劇場にいた客は僕を含めてわずかに11人でした。絶対に座れますから、安心して観に行ってください。

 とってもいい映画だと思います。観て損のない映画だと思います。派手さや新しさはないけれど、監督やスタッフ出演者達は、水準の高い、いい仕事をしたと思います。全然ヒットとは無縁で、たぶん大赤字だと思いますけど、日本映画にもまだこれだけのものを作るだけの力は残っているのだということを知って、なんだか心強くなりました。

 とっても心配です。プロデューサーは、どこでお金を回収するつもりなんでしょうか。松山善三監督は、こんな映画を作ってしまって、次の作品が撮れるんでしょうか。そもそも、こんなにいい映画にこれっぽっちの客しか入らないっていう日本映画の状態って、放っておいても平気なんでしょうか。

 とっても言葉にはできない感動を、いっぱいっぱい与えてくれた映画です。今年観た日本映画の中で、いや、映画全部の中でもベスト5に入れていい作品でした。



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