カリートの道

1994/05/17
アメリカのギャングの話になっているけど筋立ては東映仁侠映画。
役者廃業したはずのショーン・ペンが巧い。by K. Hattori



 僕はアル・パチーノという役者があまり好きではありません。パチーノって、どの映画でどんな役をやっていてもパチーノなんですよね。もっとも僕は彼の若い頃をあまり知りませんからナンですが……。『スカーフェイス』も『恋のためらい/フランキー&ジョニー』も『ゴッド・ファーザー3』も『セント・オブ・ウーマン』も『摩天楼を夢見て』も全部同じ「アル・パチーノ」に見えてしまう。例外は『ゴッド・ファーザー』の1,2作目だけだったんです。ところが今日『カリートの道』を観てきて、例外がまた増えました。この映画のパチーノはすごくよかったです。

 話が「やくざ映画」のパタンにどっぷりはまっているから、この役は誰が演じてもそれなりにはまるのかもしれません。ただ、パチーノという役者が演じたことで、主人公カリートの人物像にグッと奥行きが出ていることは確かです。このカリートという男を見て、同じデ・パルマ映画『スカーフェイス』の主人公を思い出さない人はいないでしょう。『カリートの道』はやくざから堅気になろうとしたトニー・モンタナのお話です。他の役者が演じれば長々とその生い立ちから説明しなければならないところですが、この映画では主演にパチーノを迎えることで、そうした面倒な手続きをすっぱりと断ち切っている。その分、ぎこちなく新たな人生をまさぐろうとする中年男の話に集中できるのです。

 オープニングで主人公を殺してしまうという手法は、古くは『市民ケーン』、新しいところでは『病は気から/病院へ行こう2』まで延々使われ続けてきた手法。このオープニングのモノクロ・スローモーション映像が完全なデ・パルマ・タッチ。流麗で優雅で悲壮感漂うカメラワークは絶品です。物語はここから主人公カリートの回想になり、最後は冒頭のシーンに物語が追いついて終わります。物語の構成としてはなんの新しさもないけれど、このあまりにも切ない物語には似合っていると思いました。パートカラーも使われていましたが、これは『シンドラーのリスト』なんかよりよっぽど効果的です。

(長文のため、73行省略。)

 ラストシーンで、僕は涙をおさえることができませんでした。『トゥルー・ロマンス』のラストシーンに、なんだか納得がいかなかった人にはオススメの映画です。同じ浜辺のシーンでも、グッとくる度合いが違います。このラストシーンを、僕はしばらく忘れられそうにありません。

 『トゥルー・ロマンス』と言えばパトリシア・アークエット。アークエットはホント言うと『インディアン・ランナー』の方が35倍ぐらい魅力的なんですが、その『インディアン・ランナー』の監督ショーン・ペンが、カリートの友人弁護士役で出演しています。これがまたイイ。アル・パチーノを向こうに回して互角の芝居をしてました。たいした役者です。


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