キリング・ゾーイ

1994/06/01
昼は銀行員、夜はコールガールのジュリー・デルピーが大活躍。
アングラートのぶち切れた悪党ぶりも見もの。by K. Hattori


 ジュリー・デルピーがすごくすごく良い。僕はこの若い女優さんを『ボイジャー』と『汚れた血』のちょい役程度でしか観ていませんが、今回もじつに印象的な役柄を演じています。ますます好きになりました。

 製作総指揮がクエンティン・タランティーノということもあって、彼の名作『レザボア・ドッグス』を引き合いに出す評が多いですね。僕が観た感じでは、むしろタランティーノ脚本のトニー・スコット映画『トゥルー・ロマンス』に近い印象を持ちました。ジュリー・デルピーはアルバイトのコールガールで、出会ったその日に主人公であるアメリカ人ゼッドに運命的な出会いを感じます。これが『トゥルー・ロマンス』のアラバマにダブってくる。また、映画のラストでゼッドを肩に抱えてまんまと警官隊をくぐり抜ける辺りは、もろ『トゥルー・ロマンス』です。パトリシア・アークエットは『インディアン・ランナー』で魅力炸裂の好印象を僕に与えた女優ですが、はっきり言って『トゥルー・ロマンス』ではパッとしなかった。引き替え『キリング・ゾーイ』のジュリー・デルピーは、この映画の中で本当にのびのびと役柄を演じきっている。一度ベッドを共にしただけで、本能的に男に惹かれて行く女。最後の最後は実にしたたかで強い女。そんなゾーイの姿にクラクラしっぱなしでした。

 実の父と知らないまま中年の男を愛する『ボイジャー』の少女でも、ひたすら恋人を追い続ける『汚れた血』のオートバイ少女でも、デルピーはひたむきで真っ直ぐな役柄を好演していました。『キリング・ゾーイ』でもそれは同じ。ほっそりとした身体で目鼻立ちもどちらかと言えば地味、とりたてて華のある女優ではないけれど、秘められた芯の強さと知性を感じさせるジュリー・デルピーに僕は首ったけです。ああ、こんなことなら『「彼女」の存在』や『三銃士』も観るのだった……。キェシロフスキの『白の愛』はぜひ観なくては!

 『ニキータ』『ベティー・ブルー』の二枚目俳優、ジャン・ユーグ・アングラートが銀行強盗のリーダーを演じていますが、長髪で無精ひげをはやし麻薬に溺れたエイズでサディスティックでしかもホモでやきもち焼きで大バカ野郎ですね、このエリックという男は。アングラートはこの役柄をうまくこなし、いかにも現代的な悪役に仕上げています。

 デルピーとアングラートの話ばかりで、主役であるエリック・ストルツの話がほとんど出てきませんが、ストルツ演ずるゼッドはこの映画では一番影が薄い。ゼッドというひとりの男をめぐる、ゾーイとエリックの対比がこの映画の主題となっています。ゼッドは最後まで周囲の状況に流されるままで、ほとんど主体性がない。ひとつのおもちゃを取り合う子どものように、ゾーイとエリックは対立しているのです。おもちゃが自己主張したら、ちょっと困りますよねぇ……。


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