わかれ路

1994/06/27
シャロン・ストーンが貞節な耐える妻には見えないミスキャストだが、
リチャード・ギアとロリータ・ダビドビッチの好演が光る。by K. Hattori


 夫婦生活と愛人との間で揺れ動く男をリチャード・ギアが好演。愛人役のロリータ・ダビドビッチの好サポートもあり、しっとりとした大人のドラマに仕上がっている。主人公が事故を起こすシーンから物語は回想にはいるが、過去を描いた回想シーン中にさらに回想シーンが入ったりするあたり、複雑な構成だが比較的手際よくまとめられている。妻に対する嫌悪・嫉妬・愛情というアンビバレンツな感情、娘への無条件の愛、愛人をいとおしく思う気持ち。夫婦関係が破綻しても、仕事上のパートナーとしては妻に依存せざるを得ない自分に対する歯がゆさと自己嫌悪。妻との生活を見限り、愛人との新しい生活を作ろうと決心しながらも、最後の最後にはそこに踏み出すことを躊躇してしまう優柔不断さ。妻への愛憎と愛人への想いに引き裂かれる男の苦しみは、それが自ら招いたこととはいえあまりにも過酷だ。

 一度は愛人と別れる決心をした男だが、その決意を愛人に告げるために書いた手紙を、彼はポストに投函することができない。田舎道のドライブインで沈痛な面もちで立ち尽くす彼に声をかける、牛乳配達の男とその孫娘が実に印象的。ここで交わしたほんの二言三言が、彼の心にかかっていた霧を一気に吹き飛ばす。迷いの晴れた主人公は愛する女のもとに車をとばすが、そこで物語は冒頭の事故シーンへとつながる。

 物語のラストはすこしメロドラマに流れすぎた印象を受ける。このシニカルな結末にしては、味付けが多少甘ったるい。へんてこりんな幻想シーンなど入れずに、事故のシーンからすっぱりと切れ味鮮やかにラストに向かってほしかった。

 最大の欠点はシャロン・ストーン演じる妻がミスキャストだということ。夫が制作担当、妻が営業とマネジメント担当というのが、主人公夫婦の仕事上の役割分担なのだが、その関係がしばしば私生活の領域を脅かすことが、夫には負担になってきたのだと思う。才能ある若い建築家であった彼を世に出すことが、妻にとっての最大の愛情表現。夫である主人公にはそれが充分わかっているからこそ、夫婦関係が16年間続いてきたのだと思う。しかし、その妻をシャロン・ストーンが演じると、彼女がリチャード・ギアをあごで使っているように見えてしまう。妻が嬉々として夫にかいがいしく尽くしているという様子にはどうしても見えないのだ。夫が妻に依存しているのと同様に、妻も夫の才能と能力に依存しているのだが、そうした相互依存の関係は、シャロン・ストーンの冷たく無表情な容貌からは見えてこなかった。主人公が妻に100%依存しているように見えてしまう部分を感じたのは、僕だけではないと思う。


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