ワイアット・アープ

1994/07/04
主演ケヴィン・コスナー、監督ローレンス・カスダンで描くOK牧場の決闘。
同時期公開された『トゥームストーン』に及ばないデキ。by K. Hattori


 どうしても先日観たばかりの『トゥームストーン』と比べてしまいます。主人公ワイアット・アープに関して言えば、カート・ラッセルよりケヴィン・コスナーの方が何十倍も魅力的です。こればかりはスター俳優の風格でしょう。しかし、その他の点に目を転ずると、僕は幾つもの点で『トゥームストーン』の方が面白かったですね。

 『トゥームストーン』に完全に軍配が上がるのは、主人公の親友ドク・ホリデイに関する部分。デニス・クエイドがいくらがんばっても、バル・キルマーのドクにはかなわなかったと思う。もちろん、アープとホリデイの友情を主題にした『トゥームストーン』と、主人公の人間的な成長の軌跡に主眼をおいた『ワイアット・アープ』では描き方が違うのも当然だろうけど、ドク・ホリデイは主人公が兄弟以外で唯一心を許した友なだけに、人物としても比重が大きくなるのは当然のこと。デニス・クエイドのドクは表面をさらりと撫でただけで、結核という(当時の)死病につかれた男の刹那的な生きざまを描ききることはできなかった。一方でバル・キルマーのドク像はこの男の悲壮な生き方を余すことなく描き、観客である僕に忘れがたい印象を刻みつけました。

 ドク・ホリデイに限らず、『ワイアット・アープ』で描かれる周辺人物は、主人公に比べて表現が小粒です。例えばアープ兄弟の長兄バージル、ドクの恋人ケイト、ワイアット2番目の妻マティ、敵対する保安官ビーハン、それにOKコラルで決闘することになるクラントン一家(カウボーイズ)などの描写は、間違いなく『トゥームストーン』の方が濃厚。もっとも、最後に主人公と結ばれる元女優ジョージー(ジョセフィーヌ)については、さすがに甲乙付けがたいものがありました。個人的には『ワイアット・アープ』に出演していたジョアンナ・ゴーイングがかわいいと思いますが、意志の強さや力強さを感じさせる点では『トゥームストーン』のダナ・ディレイニーが適役だったと思います。ビーハンからアープに乗り換える時、ゴーイングのジョージーは何も考えないし躊躇もしない。ディレイニーのジョセフィーヌに見られた男と女の駆け引きもなし。このあたりは脚本の問題だけど、『ワイアット・アープ』は不自然、『トゥームストーン』は描写がくどかった。

 『トゥームストーン』でさんざん文句を言ったガンアクションですが、『ワイアット・アープ』には見るべきガンアクションそのものが欠如していて、比較になりません。OKコラルの決闘はちっとも盛り上がらず、映画冒頭で期待だけを盛り上げた割には拍子抜けする仕上がりです。意欲だけなら『トゥームストーン』が上だったと言うべきでしょう。

 さんざん文句を言って、ではこの映画がつまらないかというとそんなことは全然ないのです。3時間という上映時間は多少長く感じますが、ケヴィン・コスナーというスターの魅力は観客を充分に引きつけます。主人公と兄弟たちの絆、兄弟の妻たちとの確執などは上手に描かれ、父親役ジーン・ハックマンの大きさも手伝って、十分に納得のできる家族のドラマを見せてくれました。

 『トゥームストーン』は主人公ワイアット・アープ以外は充実した映画でしたが、『ワイアット・アープ』は主人公だけは充実した映画です。どちらの方が観ていて楽チンかというと、明らかに後者だったりするんですけどね。いずれにせよ、安心して観ていられる娯楽大作です。『ボディガード』もそうだったけどね……。


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