ウルフ

1994/09/27
出版社勤務のしょぼくれた中年男が狼のパワーで精力絶倫になる話。
私も狼になりたいと願った観客は多いだろう。by K. Hattori


 本当にこのラストでいいんですか。僕は不満です。ラストシーンに余韻を残すのはいい。でも、中途半端で物語を放り出すのと余韻とは、全く別のものだと思うのですが……。

 ジャック・ニコルソン主演のこの狼男映画は、タッチとしてはモダンホラー風。夜道ではねた狼に咬まれた男が、徐々に肉体の変化をとげて行く。『ザ・フライ』を思い出さずにいられない展開だが、この映画の面白さは、変身前の主人公がいかにもさえない年輩の男だという点。会社では若い部下に職を奪われ、嫌なら辞めろと言わんばかりに左遷される。しかも同じ部下には妻まで寝取られているありさま。この男がいきなり会社や部下に反撃するのだからきわめて痛快。ハエ男に変身するジェフ・ゴールドブラムは観客の目にも哀れだったが、この映画のニコルソンには早く狼男になってほしいと願うほどだった。主人公はばりばりと仕事をこなし、会社をなかば脅すように職を取り戻し、嫌な部下にクビを言い渡す。不貞な妻と別居すれば、新しい恋人ができる。社長の娘。しかも美人。万々歳。

 変身といっても、外面的な変化はほとんどない。目がよくなり、嗅覚、聴覚も敏感になる。身体がたくましくなって、動きも俊敏になり、しかもセックスまで強くなるのだから、おいぼれた学者が「私を咬んで狼にしてくれ」とニコルソンに頼むのもうなずける。新たなスーパーマンの出現だ。欠点は夜になると無意識に部屋を抜け出すこと。庭の鹿を殺して食べたり、公園に出没する強盗の指を食いちぎったりするのはちょっと困る。なによりこれにはニコルソン自身がうろたえる。

 ここから物語は『ザ・フライ』になってしまう。これは脚本の失敗。僕はニコルソンの台詞どおりハッピーエンドを信じていたのに、物語はどんどんニコルソンと恋人のミシェル・ファイファーを追い込んで行く。

 嫌な部下を演じたジェームズ・スペイダーが、いきなり下品な台詞をしゃべりだして嫌な予感がした。それまで格調高く進んできた物語が、いきなりB級ホラー映画のノリになってしまう。ほら、なってしまった。「へっへっへ、俺は全部知ってるんだぜ〜。な、いいだろ。俺にもやらせろよ〜」とファイファーにせまるスペイダーにはがっかり。ファイファーが逃げるとこの男、ニコルソンの目の前でむりやり乱暴狼藉を働こうとする始末。逃げろファイファー。助けるんだニコルソン。

 僕としては、狼男になったニコルソンが昼間は出版社に勤めながら、ときどき変身してファイファーと夜の街を遊び回るという、金子修介の『咬みつきたい』みたいな展開にしてほしかった。完全な狼になってしまったニコルソンをファイファーが追うラストシーンなんて、これじゃまるで『レディ・ホーク』ではないか。でも今度はそろって狼だから、多少は幸せなのかしらね。

 指を咬みちぎられたギャングの行方も気になるし、ねぇ、本当にこのラストでいいんですか。


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