依頼人

1994/10/11
スーザン・サランドンとトミー・リー・ジョーンズを向こうに回し、
ブラッド・レンフロが存在感のある芝居をする。by K. Hattoriby K. Hattori


 ジョン・グリシャム原作の映画としては、法の間隙をつくトリックの面で『ザ・ファーム/法律事務所』に及ばず、アクションとサスペンスの面では『ペリカン文書』に劣る。しかしながらスターの名前におぶさって物語のバランスが若干いびつになった前2作に比べると、この『依頼人』は俄然まとまった作品になっている。完成度では2作をはるかに上回った。主演のスーザン・サランドンとトミー・リー・ジョーンズには、トム・クルーズやジュリア・ロバーツの華やかさこそないが、火花散る二人の熱演はキャリアの円熟を感じさせ、映画をコクのあるものに仕上げている。この味わいは若手には出せまい。

 スーザン・サランドン演じる弁護士レジー・ラブは、離婚訴訟で夫に子供を奪われたショックから一時はアルコールに溺れ、そこから苦しみながらはい上がってきた女性だ。彼女は11歳の少年マーク・スウェイから、たった1ドルで弁護を引き受ける。レジーはマークの中に自分の子供の姿をダブらせたのだろう。彼女はこの後ねばり強い説得と行動力で、マークの気持ちを解きほぐし、FBIと交渉し、マフィアと渡り合うことになる。サランドンは複雑な過去を持つレジーという役を、じつに見事に演じている。彼女がガレージの中で我が子のグローブや手形、靴などを抱きしめるシーンは、無言の芝居で観客の涙を誘うが、年期の入った名演技には脱帽だ。

 片やトミー・リー・ジョーンズ演ずるロイ・フォルトリッグ検事は、マフィアによる議員殺しを立証するため、執拗にマーク少年を問いつめる。傲慢で自己中心的でありながら、検事としてはなかなかの辣腕ぶり。どこかチャーミングなところもあって憎めない人物を、ジョーンズは巧みに画面に出現させてみせた。彼の仕草や表情は、時にユーモラスな空気を映画に吹き込む。サランドンの演技をまっすぐ受けとめ、また投げ帰す芝居の応酬は、見ていて快感ですらある。

 他にはマークの母親を演じたメアリー・ルイーズ・パーカーも、生活に疲れ切っている若い母親を好演。人情味たっぷりに裁判所判事を演じたオジー・ディヴィスが印象に残った。

 しかし何といってもすごいのは、物語の焦点となる少年マーク・スウェイを演じたブラッド・レンフロの芝居度胸。サランドンとジョーンズ相手に、一歩も引けを取らない芝居をして見せたあたりは立派なもで、この映画がデビュー作ということだから、今後が楽しみだ。

 物語は事件の目撃者である少年をめぐる、弁護士、検事、マフィアの攻防が軸。マフィアが迫力不足でサスペンスがやや薄味になっているのが残念だが、あとは満点だ。全編に流れる弱者への優しい眼差しが、この映画を温かいものにしている。ラストシーンがじつにさわやか。こんなに後味のいいハッピーエンディングは、最近珍しいのではなかろうか。


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