34丁目の奇跡

1994/12/26 みゆき座
ニューヨークの名門デパートに現れた本物のサンタクロースのお話。
クリスマスの定番映画をジョン・ヒューズが再々映画化。by K. Hattori


 クリスマス・スタンダードの再映画化。オリジナルのモノクロ映画はアイディアと脚本がまず素晴らしく、同じストーリーのアウトラインをなぞったこの映画が面白いのは当たり前の話。問題は半世紀近く前の映画を現代風にどうアレンジするかと、オリジナル映画を繰り返し観てきた観客に、この新作が新しい感動を伝えられるかどうかにかかっている。そして結論。この映画はオリジナル映画を見事に現代風に生まれかえらせたし、観客の感動も新しくなっていると思う。

 オリジナルからの変更点は、ニューヨークのサンタクロース、クリス・クリングル氏が窮地に陥る理由が、ライバルデパートの陰謀だという味付けになっていること。これによって、クリスを雇ったデパート内部のゴタゴタはすっきりし、クリスを守ろうという結束が強まっている。しかし新旧の最も大きな変化は、少女の母親と弁護士のエピソードを深く掘り下げたこと。同じエピソードはオリジナルにもあったけれど、今回の新作ではそれをよりクローズアップして、大人のラブストーリーに仕上げている。互いに好意を持っていても、なかなかその先に踏み込めない男女の微妙な感情が、物語に新しい共感と感動を吹き込んだのだと思う。アッテンボローのクリスは、オリジナルより本物らしくて良し!

 しかし、何といってもこの映画で注目すべきは、子役マラ・ウィルソンの演技。驚異的な存在感で観客の目をスクリーンに釘付けにすること請け合いだ。オリジナル版で同じ役を演じたナタリー・ウッドの、こまっしゃくれた少女も良かったけれど、新作ではウィルソンが同じこまっしゃくれた顔の下にある傷ついた少女の顔をちらりちらりとのぞかせて、これがまた観客の涙を絞るのだ。おとぎ話なんて信じない、サンタなんていないと口では言いながら、心の奥深くではそれらを信じたいと思う少女の姿は、そのまま彼女の母親の姿でもある。クリスに向かって悲しそうな顔でおずおずとカタログの切り抜きを差し出す少女スーザンが、やがてサンタの存在を信じ、母親に向かって「あなたは完全に間違っています」と宣言したときの自信に満ちた晴れ晴れとした顔になる。最高です。

 脚本には問題も多い。完全な悪役を登場させたり、それ以外の人物が全部善人だったり、わかりやすくし過ぎてひたすら甘ったるい物語になっている。裁判シーンもオリジナルの方が面白いし、そもそも新作の裁判内容ってごまかしがあるよね。サンタの存在を信じることと、クリスがサンタであるかどうかは別の次元の話だもの。このあたりはテンポとスピードで流していたけれど、僕は気になった。でも、それはこの映画にとって些細なこと。欠点を補って余りある感動が、この映画にはある。


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