ジュニア

1995/01/15 渋東シネタワー1
シュワルツェネッガー、ダニー・デビート、エマ・トンプソンが好演。
不妊症の特効薬を男に注射したことから始まるコメディ。by K. Hattori


 とびきり面白いわけではないが、特にアラも見えず、1800円分の入場料ぐらいは元がとれる映画。シュワルツェネッガーは『トゥルーライズ』『ジュニア』とコメディー系の芝居がますます板に付いてますが、この人はたして正統派のアクション俳優に戻れるんでしょうか。それとも『ラスト・アクション・ヒーロー』あたりが打ち止めなんだろうか。

 さて、シュワルツェネッガーとダニー・デビートが主演で監督がアイヴァン・ライトマンのコメディ映画と言えば『ツインズ』があります。『ツインズ』は遺伝子実験の結果スーパーマンの弟とできそこないの兄として生れた双子の話でしたが、今回もまたまた生殖科学がストーリーのベースにある。免疫機能に働きかけて流産を防止する新薬〈ニンシンスール〉の研究を進めるため、わが身を実験台とした科学者アレックスと相棒ラリー。最初は3週間の実験のはずが、実験台となったアレックスが突如母性に目覚め、かくして男が妊娠・出産するという珍事と、それをめぐるドタバタが起ることになる。

 男が妊娠する。しかもそれがあのシュワルツェネッガー。妊娠してナーバスになった彼が、テレビ番組を見て涙ぐんだり、「ひとりじゃ寂しいんだ」と訴えてラリーにくっついて回ったりする様子はギャグなんだけど、内容的には相当きわどい笑い。本当はこんなものグロテスクなブラック・ジョークにしかならないんだけど、ライトマンはそれを健全で健康な笑いに見せようとがんばっている。これがひどく苦しい。結果としてこのあたりのギャグはパンチのない薄ら笑いにとどまざるをえない。

 結局、コメディ映画としては爆発的に笑えるシーンというのがほとんどなく、いささか食足りない思いが残る。唯一笑ったのは、女装したシュワルツェネッガーが、自分が女であることを涙ながらに訴えるシーンぐらいかな。「アレクサンドラさん、あなたは美しいわ!」には爆笑した。

 エマ・トンプソンのキャラクターなども、あまり生かし切れていなかったな。トンプソンの清楚なイメージとのギャップがおかしみになるのかもしれないけれど、あいにく僕は先に『ピーターズ・フレンズ』を観ているので、エマ・トンプソンが清楚なお嬢様だという前提を持っていなかったのだ。

 デビート演ずるラリーと元の奥さんとのエピソードが、実は一番感動的だったりする。これは脚本の上手さでしょう。デビートも旨い。

 ライトマンのコメディ映画は、前作『デーヴ』の出来映えが良かっただけに、今回の映画の精彩のなさは残念。爆発的に笑わせるというタイプの監督ではないけれど、『デーヴ』の方が物語に起伏や陰影があった。シガニー・ウィバーがベッドで「トゥモロー」を歌うシーンなんて良かったもんなぁ。


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