未来は今

1995/01/16 東劇
コーエン兄弟作品。ティム・ロビンス、ポール・ニューマン主演。
失業中の若者が企業の陰謀で社長に大抜擢。by K. Hattori


 あいかわらず一筋縄では行かないコーエン兄弟の新作。田舎から出てきた青年のサクセス・ストーリーでは当然なく、夢見がちな青年と敏腕女性新聞記者のラブ・ストーリーでもない。要するに、コーエン兄弟の映画としかいいようのない、ちょっとドキドキして、ちょっとホロリとして、ちょっとゾ〜ッとして、ちょっとニヤニヤして、最後は充分満足して劇場を後にできる映画です。

 それにしても、映画表現の表も裏も熟知したこの監督(たち)の演出手腕にはいつも感心してしまう。ニクいことに、こいつらその手並みをこれでもかと見せつける無邪気なところがあって、それにも僕は好感を持っているのだな。映画作に対するスタンスは、サム・ライミ(コーエン兄弟の親友で、傑作『ダークマン』の監督。この映画では共同で脚本を書き、第2班の監督をしている)やラッセル・マルケイにも通じるモノがあるんだけど、共通するのは徹底した娯楽指向とスタイリッシュでクリアーな映像。ライミやマルケイが常にB級指向なのに対し、コーエン兄弟は何をやらせてもA級の映画風に撮ってしまうのが特徴かな。

 カンヌ・グランプリの『バートン・フィンク』なんて、筋立てはどう考えたってB級のノリなんだけど、各シークエンスをバラバラに観ると特上の超A級映画に見えてしまうのが不思議。今回の『未来は今』でも、それは共通して言えることだけどね。僕は『ミラーズ・クロッシング』で彼らの作り出すスタイリッシュな映像と、大げさで芝居気たっぷりの演出にしびれたクチだけど、最近ビデオで『赤ちゃん泥棒』なんかを観ると、コーエン兄弟の作風の中では『ミラーズ・クロッシング』だけがちょっと違うようですね。

 この映画も、全編これでもかとテクニックが冴え渡っている映画です。そもそも、あのテーマ曲だけでな〜んであんなに感動してしまうんでしょうか。オープニングの空撮風ショット。雪がきれいでね。あの雪が、あとからイイ芝居をしてくれるんだな。

 小道具の芝居といえば『ミラーズ・クロッシング』の帽子が忘れられないけど、今回は新聞紙とフラフープ。フラフープはともかくとして、新聞紙はすごいぞ。どうやって撮影したんだか、誰か教えてくれ。

 この映画で最高なのは2回ある転落シーン。これなんざ両方とも、ブラック・ユーモアとスラップスティックとナンセンスの極致だよね。僕はえんえんこのシーンだけ観ていたいぐらいだな。最高ですよ。社長の転落シーンに至っては、あの社長がもったいぶったポーズでイスに足をかけた瞬間、もう笑ってしまうもの。彼がガラス窓を破って外に飛出すと、「わ〜いやった〜」で拍手喝采。これだけでもこの映画を観る価値はあるぞ!


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