若い季節

1995/01/28 大井武蔵野館
豪華ゲストも加わって、人気テレビ番組が映画スクリーンに登場。
当時のテレビ界の熱気がそのまま伝わってくる傑作。by K. Hattori


 もともとはテレビだったそうだけど、そんなこと僕が知るわけがない。はるか昔のお話です。当時を知るひとにとっては懐かしい顔ぶれのオンパレードなんだろうけど、今僕が観ても半分以上はわかるから、僕が思った以上に自分は歳なのか、登場しているスター達のメンツがすごすぎるのか? 植木等、ハナ肇、谷啓といったクレージーキャッツの面々。淡路恵子、坂本九、ジェリー藤尾、浜美枝、沢村貞子など。他にも知ってる顔がたくさん出る。

 観ていると、画面から製作当時の熱病のような勢いがバチバチ伝わってくる。場面と場面のつなぎが荒っぽいし、集団でのダンスシーンなんか、振り付けがバラバラ。たぶん練習する時間がなかったんでしょう。突然登場人物が歌い出すのは構わないとして、これが突然終わってしまうもったいなさ。もう少し余韻とかナンとかないものかね。惜しげもなく次々とくり出される音楽シーンに、ヨダレたらたらでした。加えてギャグまたギャグ。これがまた、スピード感があっていい。今観てもかなりおかしい。

 雰囲気としては、テレビのバラエティー番組に近い。コントあり歌ありというアレね。あるいは、スターかくし芸大会の寸劇。ほとんど練習せずに、その場で台本渡されたような演技。テレビのドラマ製作手法と同じように、ぶつ切りの素材をまとめました風の構成。しばしば弊害のように言われるこのスタイルが、この映画では良い方向に作用している。例えて言うなら、「今夜は最高」(いい番組だった)を50倍にスケールアップしたものと考えてほしい。

 ひとつひとつのシーンが持っている密度がすごいのだ。もちろんばらつきはある。だが、現場のぶっつけ本番的な熱気が画面からひしひしと伝わってくるこの映画を、傑作と言わずして何と言おう。こうした画面のアウラを言葉で伝えることは出来ない。こればっかりは、実際に映画を(それも大画面で)観ることでしか、味わえない快楽なのだ。

 この映画の豪華さを端的に現しているシーンは、例えば坂本九が「どんと節」を歌い、それに対応するように植木等が「上を向いて歩こう」を歌うシーンなどに見ることもできる。でも、こんなことは映画全体の中では些細なことなのだ。

 淡路恵子が社長を務めるプランタン化粧品に、産業スパイが紛れ込んだことから巻き起こされるすったもんだを描いているが、淡路の姉で料亭の女将をしている沢村貞子が、スパイである谷啓にからむシーンなどは傑作。また、この料亭で植木等が歌い踊るシーンや、当然のようにジェリー藤尾にたかるシーンなど、爆笑シーンは数しれずだ。

 30年以上前、こんなに豪華でこんなに楽しい映画が存在したという驚きと、今それをニュープリントのぴかぴか映像で観られるという喜びに酔う。


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