クレージー大作戦

1995/02/11 大井武蔵野館
悪党のため込んだ10億円を強奪しようとするクレージーの面々。
スケールの大きさとギャグの切れ味が素晴らしい傑作。by K. Hattori


 銀座通りを歌いながらやってきた植木等が、ふらりと入った宝石店で突然ショーケースを叩き割って中の宝石を鷲づかみ、やってきた警官隊にあっさり捕まるまでの手際よさは最高です。日本一の金庫破り谷啓を仲間にするため、わざわざこうして刑務所に潜入した植木等が目指すのは、要塞のような悪党の大邸宅に溜め込まれた、悪銭ざっと10億だ。

 大胆不敵な集団脱走から、屋敷への潜入、防犯カメラの撹乱、番犬の撃退、金庫破り、落とし穴、格闘、脱出と、次から次へと飛び出すアイディアの数々に脱帽。腰縄(メンバーによって色違い)付けたままの逃亡から、デパートでの衣料品調達、火事騒ぎ。ひとつひとつのエピソードがテンポ良く繰り出され、観ているものを全く飽きさせない。

 物語は植木をリーダーとする泥棒と、敵対する相手方、さらに警察という、タランティーノの『トゥルーロマンス』ばりの構造になっている。騒動の中心には植木がいるが、物語を引っ張るのはハナ肇演ずる真面目一方の看守。悪党の金を盗むことには目をつぶるから、その後は刑務所に戻ってくれというハナ看守の中には彼なりの職業に対する倫理観があるわけで、それが植木や谷を中核とする小悪党連中との軋轢を生む。ストーリーを引っ張るのは10億円強奪戦だが、ギャグを生み出すのはハナ肇と言えるだろう。

 全編ギャグに満ちているので、どこがどういいとか悪いとか、そんなこと言っている場合ではない。僕が個人的に好きなのは、谷啓が突然酔っぱらいのまねをするところかな。あの変わり身の早さはすごいね。あと、追跡中の車が不自然にジャンプするところもよい。

 犯罪映画としてもよくできていて、中でも10億円をまんまと奪う、自動車のトリックは秀逸だ。これだけでも真面目なアクション映画が1本作れる。ここに限らず、要所要所で決めるところは決めることが、物語を弛緩させることなく、観客の興味をラストシーンまで引っ張って行くのだ。渋谷駅で電車を15分早く発車させるトリックなども、単純だけどよく考えられている。ありがちなアイディアかもしれないが、膨大なアイディアのストックから適材適所の素材を取り出すことも、才能だと思う。

 この映画は以前並木座の小さなスクリーンで、色のあせたフィルムの上映を観ているが、今回はLD発売に合わせたニュープリントでの上映。濡れたように鮮やかな画面の色調にうっとり。スクリーンに再現された30年前の東京の姿にびっくり。なかでも東横線渋谷駅の様子は、建物の形が変わっていないだけ、車両や街の様子の変化に驚く。冒頭に見える銀座4丁目にしても、バックに都電が走っているなど、僕には懐かしい風景です。


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