カミーラ
あなたといた夏

1995/03/05 シャンテ・シネ2
ブリジット・フォンダとジェシカ・タンディ主演のロードムービー。
ジェシカ・タンディの遺作になった映画。by K. Hattori


 何となく夫婦関係が冷めてきたと感じている妻。かつては互いの存在を尊敬し合っていたというのに、今ではことあるごとに小さく舌打ちをし、ぎくしゃくした間柄になってしまった。そんな夫婦が休暇を過ごす別荘地で出会った老婦人。若い妻は彼女の昔話を聞くともなしに聞くうちに、見失っていた何かが自分の中によみがえってくることを感じる。嘘か真かわからない、多少大げさな昔話を、新しくできた女の友人に嬉々として話す老婦人を演じたのは、これが遺作となったジェシカ・タンディ。しかし、この配役、この展開、どこかで観たことのある話だぞ。相手役のブリジット・フォンダをキャシー・ベイツに入れ替えると、名作『フライド・グリーン・トマト』の一丁上がり!

 『フライド・グリーン・トマト』は老人の昔話を通じて、舞台が過去と現在を行き来する物語だった。『カミーラ』ではふたりの女性がアメリカ南部からトロントまで旅をするロードムービーなのだ。

 途中で自動車を失ったり、シーズン・オフのホテルでのどかな一時を過ごしたり、ヒッチハイク中に怪しい男の車に拾われたり、いろんなエピソードがちりばめられている。それぞれ面白いんだけど、どれもが断片的で、主人公達の内面的なドラマにかかわってくることが少ないのが残念。

 タンディ演ずる老女とその息子、フォンダ演ずる妻とその夫。二組の男女が離ればなれになることで、逆に、お互いの愛情の強さを確かめ合うという物語なんだろうけど、それを観客に納得させるだけのエピソードがやっぱり不足しているんじゃないかな。女ふたりが旅に出るきっかけや動機も、あまり明確に打ち出されていなくて、途中からタンディがある明確な目的のために行動をはじめると、どうも不自然にそこだけが浮いてしまうのだ。

 突然姿を消したふたりを追うために、右往左往するふたりの男。やたら悠然と構えている警察署長もおかしい。本当は、もっと物語全体をにぎやかでコミカルな味付けで演出するべき脚本なのかもしれない。そうすれば、タンディのマイペースぶりも引き立ってきたはずだし、フォンダのぼんやりした印象も、また違った意味を持ってきたはずだ。

 即興のほら話や、自称音楽プロデューサーとの出会いなど、コミカルになる要素はいくらでもあるのに、それが喜劇になりきっていないのは不思議でしょうがない。ガンジーの奇癖に関するタンディのコメントなんて、本当は爆笑してもいいはずなんだけど、観客は誰ひとりとして笑わない。脚本に仕込んであるコミカルなシーンは、全て演出で殺されてしまっている。始終クスクス笑わせて、最後にほろりとさせるはずが、脚本と演出とがちぐはぐになって、結局は中途半端な映画になってしまったようだ。


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