徳川いれずみ師
責め地獄

1995/05/06 大井武蔵野館
まがまがしい毒の匂いを放つ石井輝男の傑作映画。
物語も演出も芝居もすべてが過剰なのだ。by K. Hattori



 映画冒頭は江戸時代の刑場場面。磔にされた女の陰部から肩口まで一気にやりを突き通すと、恐ろしい女の悲鳴と共に、飛び散る血潮のストップモーション。う〜ん、悪趣味。女の首を生きながらにして鋸引きするシーンでは、まず最初のひと引きで血潮が飛び散る場面でストップモーションにし、その後首が胴から離れる部分で再度ストップモーションにする念の入りよう。全編血と悲鳴とで構成されるこの映画に、これ以上のオープニングはありません。

 凄惨なタイトルに続いて、髪を振り乱しながら思い詰めた表情で夜の墓場をあばく、ひとりの女。棺の中から現れた男の死体を、手にした刃物で切り裂くと、男の体内から血にまみれた小さな鍵を取り出す。「これで女に戻れる」女の顔に安堵が浮かび、そそくさと着物の裾をたくし上げると、なんと女の秘部には金属製の貞操帯ががっちりとはまっているのだ。(ここで映画館には小さな笑いが起こる。)女は血まみれの鍵を股間の金属帯にあいた小さな鍵穴に差し込み、ぐるりと鍵を回す。ところが、女があれほど苦労して手に入れた鍵は、いとも簡単に途中でポキリと折れてしまうのだ。「あああ、私はいったいどうすればいいの!」(ここで館内爆笑!)

 日本一の彫物師を目指す兄弟弟子の確執と、親方の娘をめぐる恋のさや当てという物語は一応あるが、そんなもの吹き飛ばしてしまう強烈なエピソードとイメージの数々。全編女性のヌードで埋め尽くされた画面からは、白粉の匂いが漂ってきそうでした。物語を追いかけるには、いささかねじくれた脚本構成になっていますが、最後の最後までえんえんとエスカレートして行くバイタリティーとアイディアは、香港映画にも通じる健全な娯楽の香りがします。

 凄惨な虐待や拷問シーンも、ある種の過剰な美意識に彩られ、時に辟易することもありますが、なれると中毒になります。ひたすらエッチな、舐めるようなカメラワークにもドキドキ。ローアングルでとらえられたヌード女性の群れの連続。二の腕から肩にかけての彫り物を接写するカットのはずなのに、なぜか乳首にピントがあっているところなど、思わず身を乗り出してしまいました。

 クライマックスは、自分の恋人に彫り物をされた主人公が、復讐のため黒幕外人の娘を誘拐し、全身に彫り物をする場面以降でしょう。身もだえして墨を入れる苦痛に耐える少女はエロチック。生唾ものです。ライバル彫物師も外人女3人に原色の彫り物を施し、真っ暗な部屋の中で蛍光色に輝く女体がゆらゆらと揺れる。ああ、サイケデリック。そこに現れた主人公が、彫り物少女をゆっくり階段から降ろすと、少女の体は光輝く鳳凰の舞を見せる。あまりのことに、登場人物と観客は呆然。ライバルはがっくりと肩を落とし、「負けた」とつぶやくのです。



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