やくざ刑罰史
私刑(リンチ)

1995/05/07 大井武蔵野館
江戸時代から現代まで、各時代のやくざを描くオムニバス。
一番ちゃちな第3話が一番面白い。by K. Hattori



 オープニングタイトルには残虐なやくざのリンチ場面がこれでもかとづづき、タイトルとも相まって本編の暴虐ぶりを予感させる。しかし、ひたすら残酷な映画を期待するとはぐらかされるはずだ。映画は3つの異なる時代に生きたやくざを描くオムニバスで、江戸時代、明治か大正の着流しやくざ、現代を舞台にした背広のギャングアクション風物語を、それぞれタッチを変えて演出している。

 最初の1本は、了見の狭い親分を持ったやくざが、仲間の裏切りから親分に理不尽な制裁を受け、怒りが爆発して親分ともども全員を斬り殺す話。チャンバラ場面の血生臭さ以上に、舌を切り取る、目玉をえぐるなど、残酷な描写が目に付く。話としてはかなりまとまっていて、これだけで1本の映画を作れるぐらい。逆に言えば、これだけの話をこれだけのキャスティングで作っておいて、それを短いオムニバス映画の内のワンエピソードにしてしまう贅沢さが、昔の映画にはあったんですね。こんなの、話の長さを倍にしても、たぶんかかる予算はそんなに違わないと思うんだけどなぁ。

 次のエピソードは、着流しのやくざが義理と人情の間でゆれる、これまた古風な物語。薄情な親分と兄弟分の裏切り。引き裂かれる男と女。男は刑務所に。女は男が死んだと知らされ、泣く泣く別の男の妻となる。やがて男は刑務所から出所。出会い頭に襲ってきた男は、かつての恋人の夫だった。彼は肺病を患っている。死線をくぐり抜けてきた男同士は、ひとりの女を間にはさみつつ、奇妙な友情を感じる。やがて戦わなくてはならない男二人。交わる白刃。肺病を患う男は自ら身体を相手の刃にさらし、女を男にゆだねて息絶える。何から何までパターン通りの、見ていて恥ずかしくなるようなやくざ映画。これも、たっぷり時間をかけてやればそれなりに見られなくはないんだろうが、ここまで圧縮すると味わいも何もないな。

 最後は見もの。やたらとピストルの弾が飛び交う、無国籍風アクション映画。組織の中で謀略の限りをつくし、のし上がっていこうとする野心あふれる男と、彼につきまとう謎の男。時に急場を救い、時に利用しあいながら、最後までマンガチックに物語が進む。これのどこが見ものかというと、最後のエピソードがどこかで見たことあるものだからなんだな。

 広い倉庫で、アタッシュケースの中の金塊をめぐって互いに殺しあう男たち。謀略、裏切りが、男たちの間を駆けめぐる。だが、男たちが全員倒れた後、漁夫の利をかすめ取るように金塊を盗み出す例の男。ほとんどミスター・ピンクである。

 この映画の中で最もチープなこのエピソードこそ、タランティーノの『レザボア・ドッグス』の原型なのである! と、僕は勝手に断言してしまおう。



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