KAMIKAZE TAXI

1995/05/25 中野武蔵野ホール
クライマックスの凄味は『レオン』の何十倍も迫力がある。
登場する役者がみんな素晴らしい。by K. Hattori



 物語は極めてシンプル。恋人を自分の属する組織に殺されたチンピラやくざが組織を裏切るが、その裏切りも組織にばれて、彼は仲間を全て殺されてしまう。天涯孤独になった彼は、ひとり組織に対する復讐を誓う。たまたま一緒になった日系ペルー人のタクシー運転手と、なぜか温泉に逃げたりもしますが、ま、このプロットをそのまま映画にすれば、たぶん1時間半に満たない時間で仕上がるはずです。それを物語が延々脇道にそれたりしながら、3時間近い映画にしてしまったところに、この映画の独自性があるのでしょう。

 現代日本の風俗や社会現象を全部ぶち込んだ、かなり欲張りな映画で、例えば自己啓発セミナーの話題などはカットしてしまった方が、映画としてはバランスが良かったと思う。でも、これをカットしてしまうと、この映画の面白さは半減してしまう。かように、この映画の魅力の大部分は、そのバランスの悪さにあると言えるのです。

 それは映画の冒頭から一貫してそうで、録音が悪いのかそういうねらいなのか、やたらと聞き取りにくい台詞が延々続いたりすると、観ているこっちは「ええい、こんなところカットしてしまえ!」と怒鳴りたくなることもしばしばなんだよね。しかも、聞き取りづらい台詞にも律儀に英語の字幕が入るもんだから、なにか意味のある台詞かと思ってしまう。映画の後半になると台詞はずいぶんと聞き取りやすくなるから、やはり前半部分は録音に問題があるのかなぁ。それがすごく気になりました。

 この映画はキャスティングが素晴らしいのですね。この極めてバランスの悪い物語を、かろうじて物語としてつなぎ止めているのは役者たちの力だと思う。もちろん、それは監督の力量でもあるんだけどね。主演の高橋和也と役所広司は良かったなぁ。高橋はいかにも現代的な若者を力一杯演じていて好感が持てるし、役所はどう見たって〈日系ペルー人のタクシー運転手〉には見えないのに、やっぱりうまいよね。そうそう、最後の議員宅襲撃シーンは、『レオン』の30倍はかっこいいぞ。僕はしびれたなぁ。

 組長アニマルを演じたミッキー・カーチスも最高だった。このキャスティングを考えた人は天才だね。それにあの台詞。軽くていいんだ。ま、こうした軽くてひょうひょうとしたヤクザ像ってのは、ビートたけしあたりが発明したものかもしれないけど、この映画のカーチスはその極北にいるね。最後の最後まで、大いに楽しませてもらいました。そうそう、あの若頭もよかった。はっはっは、ぶっとぶぜぇ。

 でも、僕が一番注目したのは、やっぱり片岡礼子だったりするわけです。『愛の新世界』もよかったけど、この映画の彼女も存在感に僕の目はくぎ付け。あ、これは演技云々ではなく、好みの問題ですね。



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