死の接吻

1995/06/06 日比谷映画
共演のニコラス・ケイジやサミュエル・L・ジャクソンを向こうに回し、
主演のデイビッド・カルーソーが存在感たっぷり。by K. Hattori



 脚本が見事なことに加え、キャスティングが素晴らしい。主人公ジミーを演じたデイビッド・カルーソという役者にはなじみがありませんでしたが、テレビでは有名な俳優らしいですね。味のあるいい役者だと思います。ヒゲ面のニコラス・ケイジも、凶暴そうでよかったなぁ。そして、サミュエル・L・ジャクソン。最近この人、どこにでも登場しますが、僕は大好きな俳優ですから許します。今回は主人公のチンピラ、ジミーを逮捕する際の銃撃で頬に傷を受け、常に右の目から涙を流し続けるという役柄。いつも真っ白なハンカチを小さくたたみ、右の目の下をぬぐっている仕草が印象的ですが、こういう細かなキャラクターの造形ってのは、かなりグッときますね。この役柄は、ここ最近のジャクソン出演作中ではベストだと思います。

 主人公の妻がアル中からの更生者で、夫が逮捕されたショックでついまた酒に手を出してしまうというあたりも、身につまされるものがありました。このへんは脚本と演出のうまいことうまいこと。小さな偶然と作意が積み重なって、彼女をどんどん追いつめて行く。この描写のていねいなコトったらない。ほれぼれと感心しながら、彼女が自動車事故を起こして死んでしまうところを見ていました。妥協のない残酷さで彼女を死に追いやる脚本家と演出家は、すごい人たちです。

 街のチンピラやくざが、なんとか更正して人並みのささやかな幸せを手にしようともがくのですが、まわりが寄ってたかってそれを邪魔しようとする。なにも悪意があってのことじゃない。それぞれの利害や思惑が入り交じり、主人公をにっちもさっちも行かない状況に押しやる。彼のまわりにいる連中は、かたや街の大物ギャングの二代目であり、かたやそのギャングを捕らえようとする検察局の捜査官、そこに主人公を逆恨みしている刑事、別のルートからギャングを捕らえようとしているFBIがからんでくる。四方八方から取り囲まれて、どういうわけかその中心に取り残される主人公。頼る者はいない。自分の身と家族の安全を守るのは最後に自分自身しかいないというところまで、これまた徹底的に追い込まれてゆく。この緊迫感。

 刑事役がサミュエル・L・ジャクソンですから、単なる逆恨みでは終わらないのは、最初から観客にわかってしまう。この点で、意外性に欠けるのが残念と言えば残念。最後には、同じ弾で傷を受け合った同士のよしみか、はたまた刑事としての正義感からか。ジャクソン演ずるカルヴィン刑事がジミーを間一髪のところで救うことになる。それでもここまで戦ったのは主人公ジミーの力。カルヴィンにしろジミーにしろ、ただで権力には屈しない。要は〈一寸の虫にも五分の魂〉という映画だなぁ。


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