アウトブレイク

1995/06/11 丸の内ルーブル
流行のエボラ出血熱にあやかって他人の不幸に便乗した映画。
劇場は大盛況だが映画のできはよくなかった。by K. Hattori



 今年はエボラ・ウィルスがちょっとしたブーム。まず第一に「ホットゾーン」というノンフィクションがベストセラーになり、それをヒントにした映画『アウトブレイク』が作られ、さらにザイールでは本当にエボラ・ウィルスが出現して多くの死者を出してしまったのだから、タイミングというのは恐ろしい。僕はアフリカのエボラは、映画関係者が宣伝用にウィルスをばらまいたのかと思いました。そうそう、ゴルゴ13にもエボラ・ウィルスのエピソードが登場しました。ま、これは便乗組ですね。

 そんなこともあってかこの『アウトブレイク』、まもなく公開劇場が切り替わるという時期にもかかわらず、立見の客まで出る盛況です。僕は丸の内ルーブルで観ましたが、劇場関係者はこのままこの大きな劇場で映画の上映を続けたいに違いない。これは配給会社や劇場にとっても、思わぬ誤算でしょうね。ちなみに17日から銀座地区での『アウトブレイク』上映劇場は、松竹セントラル2に移ります。ま、ザイールのエボラも蔓延に収拾がついたようですし、社会現象としての〈エボラ熱〉にもひと段落といったところでしょうか。

 そんな話題性抜群の映画ですが、あいにくと映画そのものはよいデキとは思えないものでした。目に見えないウィルスというものが一方の主人公だけに、ひょっとしたらあまり映画向きの素材ではなかったのかもしれません。ドラマを成立させるために、映画ではウィルスの軍事利用という新しい主題を持ち込み、軍事機密漏洩を恐れる軍の幹部が、ウィルスに汚染された町をまるごと抹殺するというストーリーを作りました。もちろん、主人公たちはそんな軍のやり方に反対し、町の人たちを守ろうと奔走するわけです。展開がまるっきり見え見え。悪い将軍がドナルド・サザーランド、その部下がモーガン・フリーマン、主人公がダスティン・ホフマン、その元妻がレネ・ルッソとくれば、それだけで話の展開がおおよそ読めるというものです。

 物語が予想通りの展開なだけにそれ以外のシーンに目を向けたいところですが、あいにくあまり見るべきシーンがないのが残念。面白かったのは、映画館でウィルスが空気感染するシーンと、病院でカメラがエアダクトの中をぐるりとたどって行く場面。これは作り手の工夫が見えてよかった。

 ウィルスの性質や、主人公がなぜ感染源を求めて東奔西走するのかという理由が少し説明不足。また、これは一番の問題だと思うのですが、サザーランド将軍がしゃにむに町の爆撃に固執する理由が、いまひとつ僕には飲み込めなかったのです。もちろん頭では理解できるのですが、映画の中の生々しい現実として感じることができない。サスペンスの前提が曖昧な印象では、物語にのれませんねぇ。


ホームページ
ホームページへ