アポロ13

1995/09/23 丸の内ピカデリー1
NASAで「最も輝かしい失敗」と形容されるアポロ13号の事故。
有名な実話をロン・ハワードが映画化。by K. Hattori



 ロン・ハワードの大型映画って、終盤ですごく大味になってしまうんだよね。『バック・ドラフト』しかり、『遥かなる大地へ』しかり。この『アポロ13』でも、後半まで緊張感が持続しないのが残念でたまらない。実際にあった事件の映画化だから、エピソードを不用意に整理できないのはわかる。でも、演出に緩急がほとんどなくて、中盤以降のサスペンスにだんだん食傷してくるんだなぁ。

 出てくる役者はほとんど同じ(これはしょうがない)、出てくる背景もほとんど同じ(これもしょうがない)、カメラアングルもほとんど変わらない(これは工夫の余地ありか?)。よほどの工夫がない限り、観客の集中力を持続させるのは難しいのではなかろうか。

 観客の関心はロケットが地球を離れ、月の裏側に到達したあたりで燃えつきている。宇宙船の乗組員たちががんばって地球まで戻って来ても、観客の側はうわのそら。見物人を月の軌道に残したまま、アポロだけが地球に戻ってしまった感じです。僕は飛行士たちが無事に地球に戻ってきたときより、ロケットが発射台から飛んで行く場面の方が何倍も感動してしまったんだよなぁ。これって、物語の本筋から言えばちょっとまずいんじゃないのかね。ま、そんなこと言いながらも、僕はこの映画が大好きです。ロン・ハワードは、じつに正しい映画の作り方をしていると思う。

 まず、宇宙船の発射から、飛行、事故、帰還まで、CGを駆使してこれでもかと見せまくるところが偉い。普通では絶対に見られないアングルからのカットを、どうだこれはすごいだろう的に見せるのも素直でいい。そして、キャスティング。主役である飛行士に、トム・ハンクスとケビン・ベーコンという脂の乗り切った旬の男優を並べ、やや生臭くなりそうなところで、刺身に添えるツマのようにビル・パクストンという受け身の俳優を持ってくる。彼は大物俳優を向こうに回すと、絶妙な演技を見せるよね。管制センターのエド・ハリスなんて、登場したときから「うむ、こいつに任せておけば大丈夫だ」という貫禄充分。『ライトスタッフ』の宇宙飛行士役があるから、NASAに馴染むなぁ。

 ゲイリー・シニーズはご存じの通り、『フォレスト・ガンプ』でハンクスの相棒役。彼がたったひとり、何度もシミュレーターで突入手順を検証するところには感動しました。心ならずも裏方に回った彼がいたからこそ、3人は地球に戻れたのかも、と思わせる演出がいい。実際には月面に足を降ろせなかったジム・ラベルに幻想シーンの中で月面散歩させる場面も含め、モデルになった人物たちに対する制作者たちの敬意と思いやりがあふれる、実録ものの見本のような映画でありました。


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