クイック&デッド

1995/11/19 丸の内ピカデリー2
シャロン・ストーンが女ガンマンに扮したピカピカの新作西部劇。
監督はサム・ライミ。かっちょいい〜。by K. Hattori



 カート・ラッセルの『トゥームストーン』より、ケヴィン・コスナーの『ワイアット・アープ』より、メル・ギブソンの『マーヴェリック』より、僕はこの映画を待っていた! シャロン・ストーン主演、サム・ライミ監督による西部劇『クイック&デッド』は、誰がなんと言おうと、ここ1年ほどで僕が最も日本公開を心待ちにしていた映画です。共演はアカデミー賞をとった西部劇『許されざる者』でイーストウッドの敵役を演じていたジーン・ハックマン。ライミ監督はコーエン兄弟の『未来は今』で第二班監督としてチラリとその手並みをかいま見せて以来の登場とあって、いやが上にも期待は膨らみます。さんざん待たされたあげく駄作だったという例に事欠かない昨今の映画界において、ここまで期待を裏切らない映画は珍しい。僕は劇場の暗闇の中で、嬉しさのあまり何度か涙をぬぐいました。

 サム・ライミはデビュー作からしてゲテモノ映画、キワモノ路線の監督ですが、中身はエンターテイメント指向で作家性もバッチリ持ち合わせているとびきりの映画作家です。彼の演出手腕の素晴らしさを計るには『ダークマン』だけで一目瞭然だし、商業主義が許すぎりぎりの線で悪ふざけに興じるしたたかさは『キャプテン・スーパーマーケット』で立証済みです。1作ごとに大きな作品をまかされるようになっているライミ監督ですが、今回は前作『キャプテン・スーパーマーケット』以上に大きな規模の映画になりました。登場する役者たちにそれぞれたっぷりと見せ場を作る一方で、ライミ流の歯切れの良い演出もしっかり見せてくれるあたりが心憎いばかり。終盤まで押さえに押さえた緊張感が、時計が時を告げると同時に文字どおり爆発するあたりはライミの真骨頂ではないでしょうか。

 ライミの映画はいつもディテールに対するこだわりを感じさせますが、今回は登場する銃器の描写が克明で、世の男性の銃に対するフェティッシュな欲望を刺激します。艶やかに冷たい光を放つ回転式コルトのずっしりとした重量感と金属の固まり特有の冷たさが、画面の中から観客に伝わってくるようでした。ハックマンがラッセル・クローを銃砲店に連れて行く場面は、少しでも銃に興味のある男を煩悩の虜にすること請け合いです。

 主演のシャロン・ストーンはとびきりかっこよかったけれど、他の登場人物たちも最高に決まっていました。ハックマンのガンマンぶりは堂に入っているし、レオナルド・ディカプリオとの歪んだ親子関係などは、ハックマンの演技力があってはじめて納得の行くものに仕上がっています。ラッセル・クローは最初から最後まで鎖につながれているという、変わったタイプのヒーローでしたが、そのハンデをはねのける存在感がありました。今後に注目です。


ホームページ
ホームページへ