フレンチ・キス

1995/12/03 スカラ座
突然婚約を破棄されたメグ・ライアンが相手の男に復讐する。
ケヴィン・クラインはその指南役です。by K. Hattori



 ローレンス・カスダンと言えば『ボディー・ガード』や『ワイアット・アープ』など、ケヴィン・コスナー主演の気の抜けた大作を撮っている監督として一部の心ある映画ファンたちから罵倒を浴びている監督だが、彼にはこれらの作品の前に『わが街』というホームドラマの佳作があることを忘れてはならない。そんな彼が今回撮ったのは、主演メグ・ライアンによるフランスが舞台のオシャレなラブ・コメディ。ライアンの相手役は『わが街』にも主演し、最近はシガニー・ウィーバーを向こうに回してアメリカ大統領を演じた『デーヴ』の好演も印象に新しいケビン・クライン。キュートで元気いっぱいだけどいささか大ざっぱなメグ・ライアンの魅力を、芸達者なケビン・クラインが受けとめて、軽いタッチのラブストーリーが成立しています。

 冒頭の旅客機シミュレーターの場面が傑作。この場面があるから、恋人を追ってライアンがパリに飛び立とうとする場面が異常な緊迫感に包まれる。たまたま横の席に乗り合わせたクラインが、そんな彼女の緊張感を巧みに和らげるあたりが上手いし、おしゃれなんだよなぁ。言葉巧みに口論に持ち込み、彼女がそれに熱中したあたりで、飛行機はぐんぐん上昇して行く。彼にしてみれば短い道中をより快適に過ごすための方便だったのかもしれないけれど、このエピソードで彼がいかに人間の心の裏表を知り尽くした男かということがよくわかる。また、口論を通してメグ・ライアン側のキャラクターもすっかり説明してしまうあたり、まさに絶妙です。

 ふたりの気持ちがどんどん引き合って、最後に結ばれるのは始めからわかっているものの、そこまでの紆余曲折をいかに上手く見せるかがこの手の映画の腕のふるいどころ。その点、この映画のカスダンは偉い。物語の展開は常に一歩先が見えてしまうのだけれど、要所要所にちりばめられた小さなエピソードや描写の数々が魅力的なため、全体の印象はだらけたところがない。メグ・ライアンがなんとなくエッフェル塔を見そびれている、というのが前半見せた小さなアイディアだけれど、これは面白かった。後半はこうした小さなアイディアがなくて、もっぱらライアンの溌剌とした表情と、要所で顔を出すジャン・レノの渋い味でロードムービー風の物語を引き締めるに留まったのが残念。ここにもうひとつアイディアが放り込めれば、傑作になったかもしれないのに。

 フランスのパリからプロバンス経由でコートダジュールまで、まるで「世界の車窓から」のような美しい風景の連続。気候や風俗が巧みに盛り込まれていて、観光映画としては最高のでき。とくに、プロバンスの古い町並みと、どこまでも広がるブドウ畑の描写には目眩がするほどでした。


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