ザ・ペーパー

1995/12/10 三軒茶屋東映
締め切りぎりぎりまで事件の真相を追う新聞記者魂。
マリサ・トメイのチャーミングな魅力。by K. Hattori



 地味な素材を派手なキャスティングで見せることに成功している映画のような印象が残るのだが、地味なのはこの監督の演出なのである。はっきり言って、キャストの力に負けているんだ。この監督の演出の手並みは悪くはないのだが、いつもカツカツ平均点ぎりぎりの及第点しか取れない人のように思える。平均点以上の脚本を、いつも平均点そこそこのレベルにまで押し止めてしまうような気がするんだけど、そういう不満をロン・ハワードに持つ人って僕だけじゃないと思う。

 『バック・ドラフト』『遥かなる大地へ』『アポロ13』と、いつも少し食い足りなさを味あわされてきた映画の数々。ロン・ハワードは、ビッグバジェットの映画でその規模に見合う感動を観客に与えられない人です。それでも次々大作を任されるんだから、映画製作の現場じゃ受けがいいんだろう。これは本人が冒険しない、芸術方向や作家性に走らない、常に平均点で満足している優等生だからでしょう。投資先としてはリスクの少ない映画作家です。映画屋稼業では一発逆転のホームランを狙うより、こうしてコツコツと地道に平均打率や出塁率を稼ぐ方が活躍の場を与えられやすいのでしょうか。

 この人の欠点は、人間を悪く描けないことと、登場するキャラクターの人物像が日常の域を踏み越えられないということにある。『スプラッシュ』や『コクーン』のように、そうした持ち味が作品とうまくかみ合えば言うことはない。だけど例えば『アポロ13』のメリハリの無さってのは、あの映画の宇宙飛行士が選りすぐりのエリート軍人には見えないってところにもあるんじゃないのかな。鍛え抜かれた強靭な人間が、不慮の事故の最中にふと見せる弱さや人間性にこそ、あの物語の感動があるんじゃないだろうか。

 この『ザ・ペーパー』という映画に欠落しているのは、例えば女上司グレン・クローズの強さと、独りよがりな傲慢さだろう。主人公が移籍を考える新聞社の、お高くとまった鼻持ちのならない様子だろう。突然拳銃をぶっ放すサツ回りの同僚記者が持っている、ある種の偏狭さや狂気だろう。こうした描写があって初めて、主人公の家庭人ぶりが浮かび上がってくる。主人公の妻が夫に転職してもらいたがる気持ちも伝わってくる。

 ぎっしりと詰まったエピソードはどれも魅力たっぷりで、歯切れの良い演出があればこの映画は大傑作になっていたはず。でもロン・ハワードの演出が、これを平均点ぎりぎりクリアの普通の映画にしてしまった。クライマックスも空回り。残念無念。相変わらず見せるマリサ・トメイのチャーミングな魅力が、この映画の唯一の収穫だろうか。ああ……。


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