まらそん侍

1996/01/15 文芸坐2
怪物勝新も昔は白塗りの二枚目スターだったという事実に愕然とさせられる
明朗快活青春スポーツ根性ドラマの時代劇版。by K. Hattori


 白塗りの勝新が若い二枚目の侍を演じる青春時代劇。もっともタイトルからも想像がつくとおり中身は時代劇のパロディで、もっともらしい筋運びにはなっているものの時代考証その他はまるで無視。幕末の小藩を舞台に、若い侍たちがデッドヒートを繰り広げる遠足の儀(マラソン)と恋の鞘当て、藩宝である金煙管の盗難騒ぎなどをからめながら、どたばたと物語が進んで行く。

 物語自体はすっきりとまとめられているが、今の目で見るとパロディとしてはパンチがない。エピソードのつなぎはスピーディーでテンポも良く、全体としては面白いとは思うのだが、残念ながらあまり笑えなかった。もっと毒があっても良かったような気がするが、それは主演している勝新のその後を知っているからだろう。それにしても勝新の若いこと若いこと。立ち回りも出てきたが、後年のパワフルな剣戟スターぶりは片鱗も見えない。きわめて迫力不足。これは撮影や演出の問題かな。

 この映画を今作るとすれば、本題である遠足の儀の場面をもっと脹らませ、マラソン中継の完全なパロディにするだろう。必至に走るランナーたちの横を、駕篭に乗ったコーチと警備の侍、瓦版記者たちが伴走している。沿道の見物人たちは藩の紋が入った小旗を打ち振り、コースの要所には給水所が置かれて水の入った竹筒がずらりと並べられる。お城の天守閣から殿様と奥方が遠眼鏡を覗きながら、コース周辺の風物を巧みに織り込んだ実況中継をする。ヘリコプターを使った空撮でランナーをとらえる絵も必ず欲しい。

 後半のスラップスティックははちゃめちゃの度合いが少なく物足りないが、それを補ってあまりあるのは家老の馬鹿息子の素っ頓狂な走りっぷりと、ちんけな泥棒トニー谷が見せる稀代のボードビリアンぶり。トニー谷がソロバンをはじいたり突然歌い出したりすると、その瞬間に主役であるはずの勝新を完全に食ってしまう。映画の中で彼の受けに回るのは、晩年一癖も二癖もある老け役ぶりを見せることになる益田喜頓なのだが、この時点ではトニー谷の才気が突出していて誰も彼の芸をつなぎ止められない。はっきり言って彼の芸はこの映画の中で完全に浮いているが、その芸こそがこの映画の宝だろう。

 昭和31年の作品だが、今では絶対に作れない種類の映画だ。時代劇全盛時代だったからこそ作れた、スタッフやキャスト、制作会社の余裕が感じられる。今ならさしずめテレビのバラエティー番組の一部で寸劇として採用するような内容だが、それではこの映画のように衣装やセットに本物を使うことができない。そもそも今のテレビのバラエティー番組にも、そんな余裕はないかもしれない。時代劇にとって現代は、じつに貧しい時代になっているのだ。


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