殺人遊戯

1996/03/10 シネマ有楽町
すごくカッコ悪い主人公こそ、じつはすごくカッコイイという逆説を、
映画の中で見事に結晶さている佳作。by K. Hattori


 『最も危険な遊戯』と同じ松田優作主演の殺し屋・鳴海昌平を主人公にしたシリーズ第2弾。監督も同じ村川透。前作がさんざんお馬鹿な展開だったので今回もさぞや盛大なお馬鹿さんかと思いきや、この映画では「主人公のかっこ悪さこそが、じつはかっこいいのである」という逆説を映像の中で見事に成立させている。

 請負仕事で暴力団の組長を殺してから5年。殺しの世界から足を洗っていた鳴海が東京に帰ってくる。(帰ってきた場所が築地や明石町だから、例によって僕にとってはご近所映画なんだけど、まぁそんなことはどうでもいい。)築地の魚屋のおっさん連中以上にダサダサのかっこをした主人公が、自分の留守中に町の中が対立するふたつのやくざ組織に牛耳られていることを知る。この後双方から金を取っておきながら、結局は両方を皆殺しにしてしまう筋立ては、明らかに黒澤の『用心棒』ですな。でもこのテーストは黒澤のモノクロ時代劇ではなく、イーストウッド主演のパクリ映画『荒野の用心棒』のそれでしょう。そういえば『最も危険な遊戯』では、刑事に撃たれた主人公が胸に入れた鉄板で弾をくい止めるという描写があったっけ。マカロニ万歳!

 この映画は人物配置がかなり整理されていて、5年前に主人公が殺した組長のもとから脱出したふたりの女がそれぞれ主人公にからんだり、主人公に気のいい弟分をくっつけたりと、ツボを押さえた定番の組立を見せている。

 主人公がたまたま入った店で、以前殺した暴力団組長の娘がホステスとして働いている。自分が殺さなければ、その娘は場末の店で働くこともなかったろうに……。と、ドロドロの因縁話になるかと思っていたらあら、あら不思議。娘はチンピラやくざとつき合っていたことが災いして、対立するやくざの幹部に犯され、責め殺されてしまうのでした。定石を押さえながらも、崩すところはしっかりと崩す。観客の期待を裏切りながら、あらぬ方向に物語が進んでしまうあたりはやはりただの映画ではない。

 最後の銃撃戦は壮絶で、撃つ松田優作も撃たれる側のやくざ連中も熱演しているのだが、銃撃戦の最中に松田が自動式拳銃のスライドをガチャガチャ動かして排莢していたのはいただけない。あれは弾を撃ち終わった後、銃に残った薬莢を捨てる描写でしょうね。演出する側はリアルな銃撃戦を目指したんだろうけど、銃に関する知識のなさが災いした。

 オートマチックの銃では、弾丸発射後のガス圧で自動的に排莢され次の弾が装填されるんだよ。弾が切れたらスライドが下がって止まるから、マガジンを入れ替えてスライドを戻せばそれで次の弾が発射できる。この映画が作られた当時は、撮影所にこの程度の知識もなかったんだなぁ。


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