泥棒成金

1996/04/16 銀座文化劇場
ケイリー・グラント演ずる元怪盗とグレース・ケリーの恋模様。
ひとことで言えば、この映画は「おしゃれ」なのだ。by K. Hattori


 軽快なメロディーにのせて、どこかの旅行会社のウインドウらしきものにタイトルロールがかぶさる。大きな豪華客船の模型にエッフェル塔、ポスターには大きく「フランス」の文字がレイアウトされている。これだけで何だかワクワクさせられますね。画面から監督ヒッチコックの名前が消えると、とたんに耳をつんざくような悲鳴が響きわたる。舞台はいきなりフランス。観客にはタイトルでの刷り込みがあるから、すんなりそれが飲み込めるのです。この導入部は素晴らしい。

 この映画はサスペンスのハラハラ感があまりないし、犯人探しのミステリーとしては途中で展開が見えてきてしまうので、ヒッチコック・ブランドの映画としてはちょっと損をしているかもしれない。これは犯罪映画と言うより、フランスのリゾート地を舞台にケイリー・グラントとグレース・ケリーの恋愛模様を描いたロマンンチック・コメディですね。この映画の一番の見どころは、たぶんグレース・ケリーの華麗なファッションや、リゾート地に集う有閑階級の豪華な暮らしぶりじゃないかな。リビエラのレストランの厨房までのぞくことができる、一種の観光映画だな。

 山道を猛スピードで疾走する車を空撮で捉えたショットや、モーターボートと飛行機の追いかけっこなど見せ場も満載だけど、こうした場面もスリルとは無縁で大味な演出。むしろ「ちゃんとロケして撮影しています」ということだけが伝えたかったような場面です。もっともロケしているとは言え昔の映画だから、役者のアップはほとんどがスタジオセットやスクリーンプロセスを使っての撮影。レストランからモーターボートで逃げる場面や、グレース・ケリーの車が警察の車に尾行される場面も人物の芝居を見せるショットはセット撮影で、ボートや車がカーブを曲がっても人物にあたる光線は変わらない。

 ところで、女が運転する車の助手席でケイリー・グラントが涼しい顔をしながら、じつは内心穏やかでないという場面は『汚名』にもありましたね。

 この映画が基本的にコメディだってことが如実に現れてるのは、海の中でケイリー・グラントが水着の女性二人にはさまれて立ち往生してしまう場面。この場面は台詞もしゃれていて、グラントを精いっぱい誘惑してみせるダニエルに対してグラントが言う台詞が「君は小娘だが、彼女は女だ」。それにダニエルは「車だって中古車より新車の方がいいわよ」と反撃。苦り切ったグラントが海岸にいるはずのケリーを振り返ると姿が見えず、「おや、中古車がいない!」。グレース・ケリーは中古車かぁ……。

 屋根の上の追跡劇はもう少しハラハラさせてほしいとか、細かな注文がないわけじゃないけど、最後はグレース・ケリーの可愛らしさに免じて許す。


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