イースター・パレード

1996/06/11 銀座文化劇場
主演はアステア&ガーランド。全編アーヴィング・バーリンの名曲ぞろい。
歌と踊りが十分に堪能できる傑作ミュージカル。by K. Hattori


 この映画には物語の進行上許しがたい、いくつかの重大な欠点がある。そのひとつはアステアの前パートナーを演じるアン・ミラーが、どうやら明確なミスキャスティングだということ。以前からこれは気になっていたのだが、今回改めて見直して確信した。ミラーの役どころは、一流ダンサーであるアステアに見出され、彼のパートナーとしてキャリアを積んだ後、彼の元を巣立ってゆく若いダンサー。アステアはこのパートナーとして育てているうちに彼女に恋するようになるのだが、ミラーはそんなアステアに多少の後ろ髪引かれる素振りを見せつつ、完全に振ってしまう。上り坂で伸び盛りの女だけが持ちうる、冒険心と自信に満ちた行動です。

 問題なのは、この役を演じるにしては、アン・ミラーに貫禄がありすぎるってこと。彼女がコーラスの列からアステアに引き抜かれて、いったいどの位の間コンビを組んでいたんだか知りませんが、この映画のアン・ミラーは、なんだかアステアと10数年来のパートナーのようにみえるもんね。ミラーは物語の中でガーランドとライバル関係になるのだから、やはりそこここに「小娘」的なニュアンスが欲しい。彼女の独立は小娘ゆえの小生意気で小賢しい行動だって感じが伝わってくると、ピーター・ローフォードとの関係なども含めてもっと物語の骨格が明確になったと思う。

 この映画のもうひとつの欠点は、ミラーと踊るアステアを見て嫉妬したガーランドが一時的にせよ彼と仲違いをする展開に、構成上の説得力がないこと。ガーランドがアステアの気持ちに疑念を持つに至る部分が弱いんだよね。だから最後の仲直りの場面が今ひとつはじけない。

 それでもこうした物語が持つ欠陥をはねのけて傑作にしてしまう、ミュージカル映画ならではの強引さがこの映画の身上。アン・ミラーに関しては彼女の「Shaking the Blues Away」があまりにも素晴らしいのですべて許せてしまうし、ガーランドの失意も「Better Luck Next Time」という一曲でひしひしと伝わってくるじゃないですか。

 この映画は他のMGMミュージカルに比べても使われている歌曲が多いと思うんだけど、そのどれもが素晴らしい見せ場になっている。冒頭アステアが踊る「Drum Crazy」の躍動感、ガーランドの「I Want to Go Back to Michigan」の可愛らしさ、コンビが壁を突き抜けるきっかけになる「I Love a Piano」は小さな名曲、「When the Midnight Choo-Choo Leaves for Alabam'」は『ショーほど素敵な商売はない』のエセル・マーマンとは違った軽やかな魅力、特撮が生きている「Steppin' Out With My Baby」、そしてこの映画の白眉「A Couple of Swells」の素晴らしさを何と例えよう……。


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