夜も昼も

1996/07/03 銀座文化劇場
「ビギン・ザ・ビギン」の作者コール・ポーターの伝記映画。
メアリー・マーティンの「私の心はパパのもの」は見もの。by K. Hattori


 ミュージカル史上もっとも偉大な作詞作曲家、コール・ポーターの伝記映画。僕はガーシュインの方が好きだけど、作った曲に関して言えば、ポーターがナンバーワンであることは間違いない。この映画はワーナー映画。今回銀座文化で特集上映されているミュージカル映画の中で、唯一の非MGM作品です。この映画が作られる前年にワーナーはガーシュインの伝記映画『アメリカ交響楽』を作り大ヒット、その前年にはジョージ・M・コーハンの伝記映画『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』を作ってこれもヒットしている。要するに、柳の下の3匹目のドジョウをねらった映画ですけど、狙いは当たって『夜も昼も』も大ヒットしたそうです。

 この時代の伝記映画は伝記とは名ばかりで、中身は完全なフィクションです。とは言え、多少の真実も混じっている。例えばポーターが落馬事故で両足を骨折したとか、そんな部分です。この映画が作られた時点でポーター本人はまだ生きていましたし、彼は両足の治療を続けている最中でした。映画の中にも描かれていましたが、手術は繰り返し行われ、合計36回に渡ったといいます。映画ではポーターが足の傷を克服したかのように描かれていますが、実際は彼の足は完治しなかった。この映画が作られてから10年以上後になって、ポーターは片足を切断することになります。

 この映画で完全に隠蔽されているのは、コール・ポーターが同性愛者だったという事実です。当時は映画の中に同性愛なんて登場させられなかったんですね。コールとリンダのポーター夫妻については、アラン・ジェイ・ラーナーの「ミュージカル物語」の中に、簡潔ながら愛情に満ちた文章で紹介してあります。リンダはバツイチで、コールより8歳年上の姉さん女房。ふたりは最初から最後までセックスレス夫婦でしたが、誰よりも深く愛し合っていたそうです。はっきり言って映画『夜も昼も』より、ラーナーの書くポーター夫妻の実像の方が感動的だったりするんですよね。僕はより実像にそった、ポーターの新しい伝記映画を作ってほしいです。

 映画『夜も昼も』の内容は、前年に作ったガーシュインの伝記映画『アメリカ交響楽』と同工異曲の代物。ガーシュインの恋人を演じたアレクシス・スミスが、今度はリンダ・ポーターを演じて、同じように「彼は私より音楽の方が大切なのよ!」と嘆きます。成長のない人ですねぇ。『アメリカ交響楽』がジョージ・ホワイト、ポール・ホワイトマン、アル・ジョルスン、オスカー・レヴァントといったガーシュインゆかりの人物を総動員していたのに比べると、『夜も昼も』はちょっと寂しいなぁ。中盤にメアリー・マーティンという大物を持ってきてはいるけど、それだけだもんね。この映画はメアリー・マーティンだけを観る映画だと割り切れれば、それはそれでいいんでしょうけど……。


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