訣別の街
NEW YORK CITY HALL

1996/08/21 よみうりホール(試写会)
アル・パチーノ演ずる市長とジョン・キューザック演ずる補佐官の対決は、
序盤のもたつきを吹き飛ばす素晴らしい芝居。by K. Hattori


 原題は「CITY HALL」。アル・パチーノ演ずる弁舌鮮やかな現職ニューヨーク市長と、ジョン・キューザック演ずる若き市長補佐官の対決が見どころだが、この結末は邦題から十分に推測できるものだった。ドラマとしてはなかなか重厚な作りになっているが、最大の難点はやはりパチーノが市長には見えないことだろうか。この男、どう格好つけてもやはり根はチンピラやくざなのである。アメリカ芸能界では「大物」なのかもしれないが、その大物ぶりがそのまま映画の中で「大物」を演じられることにはつながらない。パチーノは悪ふざけが過ぎて事故で失明した元職業軍人を演じることは出来ても、政治家、それも大物政治家を演じさせるのはミスキャストではなかろうか。僕はそれに最後まで違和感があった。

 物語は土砂降りのブルックリンから始まる。単独捜査中の刑事が、麻薬の売人と路上で撃ち合い双方が死亡。その時たまたま通りかかった6歳の少年が、流れ弾の巻き添えを食って死んでしまう。犯罪都市ニューヨークにあっては、しばらくすれば忘れられてしまうようなごくありふれた事件。しかし、これがニューヨーク政界を揺るがす大スキャンダルへとつながって行く。

 主人公である市長補佐官の関心が「街中で警官とギャングが撃ち合って少年が巻き込まれた悲劇」から、「ギャングを保護観察処分という軽い刑事罰にとどめておいた責任追及」へと移って行く過程がもう少し明確になると、この映画はもっとわかりやすくなったと思う。僕のような一般的な観客にとってはドロドロした政治の裏側より少年が殺された悲劇に関心がいくわけで、それは多分この映画の中の世界でも同じことだと思う。少年の一件が滞りなく一応の解決を見せた後、ジョン・キューザックが感じたザラリとした違和感があったはず。それが観客に伝わりにくいのではないだろうか。

 出演している俳優たちは超豪華で、主人公格のパチーノとキューザックに加え、『レオン』のレストラン主人ダニー・アイエロ、キュートなブリジット・フォンダ、『エド・ウッド』のベラ・ルゴシ役ででアカデミー賞を受賞したマーティン・ランドー、それに僕お気に入りの名脇役デビッド・ペイマーなどが画面の中で火花を散らす。ペイマーは最近『ニクソン』『アメリカン・プレジデント』など、政治サスペンスになくてはならない顔になってきたなぁ。

 僕が今回注目したのは、ダニー・アイエロ演ずるブルックリン出身の上院議員フランク・アンセルモ。この人ミュージカルが大好きで、馴染みのレストランではウェイターとお気に入りのロジャース&ハマースタインの歌を合唱したりするんだよね。映画の中には『回転木馬』の舞台も登場するんだけど、舞台の歌に合わせて彼の口が小さく動いているのが「わかるわかるこの気持ち」という感じで、つい感情移入してしまいました。車の中で『回転木馬』の中の名曲「YOU'LL NEVER WALK ALONE」を聞く場面は、胸に迫るものがありました。


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