怪談バラバラ幽霊

1996/09/14 大井武蔵野館
遺産相続人である娘を惨殺してバラバラに解体する家族。
彼らに復讐する幽霊もまたバラバラである。by K. Hattori


 昭和43年製作の大蔵映画。大蔵のロゴがカラーで登場し、本編はモノクロ……、と思わせておいて突然画面がカラーになるショック。カラーと言っても経年変化で色が全体に赤茶けちゃってるんだけど、その唐突さ、そのインパクトは名作『私が棄てた女』に匹敵するぞ。

 もっとも、この映画が時々カラーになったりモノクロになったりするのは、単に制作費がなかったせいだという気もするけど。それともカラーのプリントとモノクロのプリントをチャンポンでつないでいるのか。何しろ、映画の中でどの部分をカラーにし、どの部分をモノクロにするかという基準があまり明確に見えてこない。濡れ場がカラーになることが多いけど、そうでない場面もあるし……。凄惨な場面をモノクロにする、というわけでもない。ただこうした着色と脱色の繰り返しによって、なんだか摩訶不思議な雰囲気が生まれているのは確かだ。

 お話は単純で、外交官の父が再婚したことに反発して家を出ていた娘が、父の死をきっかけに家に戻ってくる。家には後妻と連れ子である義姉が暮らし、後妻の情夫は頻繁に家に出入りして義母との情事をむさぼっている。娘のかつての恋人は義姉と婚約している。彼らは全員、外交官であった家の主人の遺産を虎視耽々と狙っているのだ。そこに正当な遺産相続人である娘が現れたから、全員目の色が変わる。最初は弁護士を抱き込んだり、色仕掛けを使ったり、あの手この手で責めていた彼らだが、娘が遺産を分配する気がないと知るや彼女を殺害する。

 僕は大蔵映画というのを観るのが初めてなのですが、「大蔵はエログロ」という理由がよくわかった気がする。何しろこの映画、エロとグロしかないんです。全編を彩る毒々しいベッドシーンの数々。これが全然きれいじゃない。女性をきれいに撮ろうとか、そんなこと眼中にないんだよね。ただひたすら「ハダカだ」「カラミだ!」「モンクあっか!」という状態。あ、当時の女性は「脇毛=ムダ毛」という感覚がなかったようで、皆さんボーボーです。いつから女性が脇を剃るようになったのかは、それはそれで興味あるテーマだなぁ。

 物語の展開は強引だけど、筋立てが単純だからさしたる破綻もない。登場人物が少ないし、皆さん絵に描いたような悪党でいらっしゃる。またそれでなければ、大勢で寄ってたかって娘を殺すという残虐行為が、すんなりと成り立つはずもない。中でも義母と情夫が一番の悪党で、義母は遺言書改竄のために弁護士と寝るし、情夫は娘を殺す前に強姦しちゃうし。昔の恋人も財産目当てに彼女を誘惑し処女を奪った挙げ句、彼女が事の顛末を知るや殺害側に参加。義姉を動かしているのは、婚約者の心変わりを疑う嫉妬心でしょうね。

 死体をバラバラにする場面は個々のパーツ(?)がなかなかよくできていて迫力があったけど、それが幽霊になって襲ってくる場面は「いかにも線で吊ってます」という感じが丸出しで少し興ざめ。最後の追い込みは、ちょっと四谷怪談ぽいんだよね。古典だなぁ。


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