新怪談色欲外道
お岩の怨霊四谷怪談

1996/09/14 大井武蔵野館
「四谷怪談」を現代風にアレンジした怪作。濡れ場多数。
途中で別の映画を丸々引用する大胆な映画。by K. Hattori


 昭和51年製作の大蔵映画。鶴屋南北の「四谷怪談」を現代劇にアレンジした怪作。有閑マダムを相手に、身体を張った営業活動をしている冴えない宝石営業マンが、医者の娘と結婚する邪魔になった病身の妻を毒殺。殺された妻は幽霊となって男に復讐する。

 男が極めて利己的で好色で不誠実な男として描かれており、医者の娘がなぜ彼に惹かれるかは疑問。原作の伊右衛門と岩の間にあった心のつながりや、それをばっさり断ち切るためには殺すしかないというせっぱ詰まった感情は希薄になっている。こうした一切をすべて肉体関係の有無だけで説明してしまおうとする物語の粗雑さは気になるが、逆にそうした割り切りが、「四谷怪談」という古風な幽霊話を現代に復活させることを助けている。

 従来からの「四谷怪談」より優れていると思われるのは、男に思いを寄せる娘の気持ちをかなり露骨に前に出してきた点。深作欣二の『忠臣蔵外伝四谷怪談』で荻野目慶子が演じたお梅も強烈だったけど、それと同じぐらい強い印象を残す。何しろ「あの人の奥さんなんて死んじゃえばいいのよ!」と、思いっきり叫びますからねぇ。

 ポルノ紛いの現代劇ということで、かなり濃厚なベッドシーンもあることが、身体ごと男に向かってゆこうとする少女の、狂気をはらんだ一途さを際立たせている。繰り返される逢瀬の中で、硬さを残す少女から熟れた女の肉体へと変化して行く。たいした美人じゃないのに、満たされた自信で肌も艶やかになってくる。映画の終盤に近づくにつれ、ますます激しく積極的に男を求め、ふてぶてしくなって行く様子は凄味さえ感じさせる。

 彼女に比べると、原作の岩にあたる、男の妻のキャラクターは弱いなぁ。このあたりは「いかにして原作を現代劇に翻案するか」に汲々としていて、物語にゆとりがない感じがする。マッサージ師に間男させようとするくだりなど、無理にでも原作をなぞろうとする苦しさばかりが目立つ。彼が男の妻の断末魔に出くわすのは原作をなぞっているが、さすがに現代劇だから一緒に殺されることはない。不幸中の幸いでした。

 この映画の最も物凄い点は、映画の中で昭和31年製作の新東宝映画『四谷怪談』を、ほぼ丸ごと引用していること。良心の呵責に苦しむ男が寺に相談に行くと、老僧が「あなたは四谷怪談に出てくる伊右衛門の子孫。あなたの上には殺されたお岩さんの怨念が祟っているのじゃ。では四谷怪談を語って進ぜよう」と言って、そこから突然古い怪談映画が丸々1本上映されてしまうんですねぇ。伊右衛門役は若山富三郎。陰影の濃いモノクロ映像は、本編であるはずのカラー映像より格調高く、物語の語り口調も品がいい。なんだか1本映画を余計に観られて、すごく得した気分だなぁ。

 本編もそれなりに面白いんだけど、クライマックスの修羅場は少し一本調子。絞殺だけでなく、凶器を少し工夫して欲しかった。最後も自動車事故じゃあっけなさ過ぎ。もっと残酷な復讐でなければ、観客が浮かばれない。


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