エグゼクティブ・デシジョン

1996/09/24 ヤクルトホール(試写会)
最初から最後までノンストップで見せるアクションの連続。
新しさとも芸術とも無縁の娯楽大作。by K. Hattori


 いや〜、面白かったっす。語り口や組み立てに取りたてて目新しさは感じませんが、冒頭から最後のシナトラの歌まで楽しみやした。主演はカート・ラッセル。スティーブン・セガールとの二枚看板のような宣伝になっていますが、セガールは序盤にかっちょいい大活躍ぶりを見せて、その後あっさりと消えてなくなります。

 むしろ活躍するのは『ブーメラン』でエディ・マーフィーと共演した後「どうしたのかなぁ」と思われていたハリィ・ベリーとか、『3人のエンジェル』で見事なオカマぶりを見せていたジョン・レグイザモ。レグイザモは冒頭の夜間作戦シーンで顔にペイントして現れるんだけど、これは『3人のエンジェル』の観客に向けたサービスじゃねぇの? 特殊部隊の戦闘員とドラッグクイーンが、顔に塗りたくったペイントを通じてオーヴァーラップするのじゃ。うはははは!

 映画の中身は、古今東西いろんなアクション映画の寄せ集め。冒頭の神経ガス奪回作戦はアクション映画によくある夜間作戦のバリエーションだし、テロリスト逮捕劇は『今そこにある危機』風、飛行機同士のドッキングは『アポロ13』、ジャンボ機中の移動は『ダイ・ハード』、手に汗握る爆弾処理は『ブローン・アウェイ』、F14が空母から飛び出すのは『トップ・ガン』、その他たくさんの「どこかで見たような映像」のオンパレードなのだ。だからこそ、何の新味もないこの手の話を最後まで見せるには才能がいる。監督のスチュアート・ベアードはこれが初監督作品だとは思えないような、手慣れた演出ぶり。編集出身なせいか、アクションのテンポや間をよく知っています。

 アクション映画の定石をきちんと踏んでいる一方で、それを要所要所でさりげなく、小気味よく裏切ってくれる楽しさ面白さ。普通なら後の伏線にするエピソードを捨てて、全然伏線にとらないのも観客の裏をかいている。セガールとラッセルの確執とか、隠された乗客名簿とか、金だけとって働かない爆発物処理係とか、釈放されたテロリストとか……。カート・ラッセルが最後に飛行機を操縦するはめになるのは最初からわかっているんだけど、わかっていることをあれだけ引っ張ってハラハラさせるんだから、作る側は相当太い神経してます。

 細かい描写や設定に関して、「そんなのアリ?」という部分がないわけじゃない。大きな設定や描写についても「おいおい嘘だろう?」と言う部分はたくさんある。でも全編ハラハラドキドキさせてくれるから、そんな文句を吹き飛ばしてしまうんだよね。映画なんて娯楽なんだから、その時だけ、映画館の中でだけ面白がれればそれで十分なんだよ。

 この映画は映画の歴史の中からも、観た人の記憶の中からも、数年で消えてなくなってしまう類の映画です。世はそんな映画で満ち満ちている。でも僕は何年かたって、「そういや昔そんな映画があったよなぁ」という話ができればそれで幸せ。それこそ映画を観る楽しみです。


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