ティン・カップ

1996/09/29 丸の内ピカデリー1
ゴルフ版『ロッキー』みたいな内容だけど暗さがないのがいい。
ケヴィン・コスナーの表情も魅力的。by K. Hattori


 僕は『アンタッチャブル』や『フィールド・オブ・ドリームス』や『ダンス・ウィズ・ウルブス』のケヴィン・コスナーが好きだった。ちょいと古いけど、テレビで見た『さよならゲーム』も悪くないね。

 でも最近のコスナーはあまり良くなかった。はっきり言って、かなり低調だったと言ってよい。『JFK』の演説屋には胸ときめかなかったし、『ボディガード』の深刻ぶった主人公や『パーフェクト・ワールド』のおセンチな脱獄囚にはガッカリさせられたし、『ワイアット・アープ』では役の重圧に萎縮してしまったし、『8月のメモワール』では影が薄かったし、『ウォーターワールド』では髪が薄かった。僕はそんなケヴィン・コスナーなんて観たくない。僕の中の俳優ランキングの中で、コスナーはここ数年順位を落としっぱなしでした。そんな僕のコスナー評価が、この『ティン・カップ』で少しですが復調した感じです。

 映画はゴルフの話なんですが、僕は「ゴルフってどこが面白いんだろう」と常々疑問に思っている口なんですね。ケヴィン・コスナー演じる主人公がレネ・ルッソ相手にゴルフの魅力を語る場面がありますが、その言葉を聞いても、ルッソ同様、僕も「はぁそんなもんですかねぇ」てなもの。ところが映画の終盤になると物語は俄然盛り上がり、これまたルッソ同様、僕も主人公のプレーに熱中し声援を送ってしまいました。小さな球を棒っきれでひっぱたいてまわるだけの地味なスポーツの裏には、目に見えない駆け引きやドラマが隠されているのですね。

 ケヴィン・コスナー演じるティン・カップことロイ・マカヴォイは、学生時代に将来を嘱望された才能あるゴルファーですが、いつも勝負所で無鉄砲ないちかばちかの賭けに出て失敗する。ゴルフの腕は一流なんだけど、駆け引きや計算ができない、自分でこうと思ったらそれを無理矢理にでも押し通そうとしてしまう男なんです。賭けが成功すればヒーローだけど、失敗すれば目茶苦茶。彼はプロ入り前の大事な場面で賭けに失敗し、ツアープロへの道を閉ざされてしまう。今は田舎町の郊外で、小さなゴルフ練習場のオーナーになっています。

 主人公の魅力は、そんな自分の人生を悔いていないことです。へんにイジケたり、自分と同期のプロゴルファーに嫉妬心を持ったりしない。自分の方が度胸があるし腕もいい、ということを信じていて疑わない。彼にとっては名声や高収入より、気の合う仲間と自分の好きなゴルフを自分の好きなように楽しめればそれでいいんでしょうね。主人公の表情からは「人生を棒に振った」という後悔なんて微塵も感じられない。そこがこの主人公の魅力でしょう。

 話の筋はどうでもよくて、キャラクターの魅力だけで物語を引っ張るタイプの映画です。主人公はもちろん、ヒロインのレネ・ルッソ、恋のライバルでもあるドン・ジョンソン、親友でもあるキャディのチーチ・マリンなど、全員が楽しそうに芝居をしています。


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