リービング・ラスベガス

1996/09/29 有楽町スバル座
悲恋に終わるからこそ魅力的な本物の恋になることがある。
アル中の男と娼婦の悲しい恋物語。by K. Hattori


 ニコラス・ケイジがアカデミー主演男優賞をとった映画。相手役のエリザベス・シューも賞にノミネートされてたと思う。アメリカ映画では男ならアル中、女は娼婦を演じるとアカデミー賞がとれるという伝統があるそうですが、その伝で行けばこの映画などまさに「賞を取るための映画」ですね。なにしろ中身はアル中の男と娼婦の恋物語ですもの。

 タイトル通り舞台はラスベガス。豪華絢爛たるネオンの裏側で、息を潜めるようにつかの間の愛の生活を営むふたり。ケイジ演ずるベンはハリウッドのシナリオ書きだったが、酒びたりの生活で会社を馘首になり、財産をすべて現金に換えてラスベガスで死ぬまで酒をのみ続けようと決める。なぜ彼が酒に溺れるようになったのか、その原因は明確には描かれていない。妻と子がいて別れたらしいのだが、それがきっかけかもしれない。

 シュー演じる娼婦サラがその道に足を突っ込んだ理由も、ぜんぜん説明なしです。ジュリアン・サンズ演じる外国人のヒモがいたんだけど、このあたりのエピソードもばっさり切っていてよくわからない。しかし男がなぜアル中なのか、女がなぜ娼婦なのかなんてことは、この物語にとってぜんぜん関係のないことなんですね。ふたりがそうした生活に別れを告げて更生しようという話ならいざ知らず、男は酒を飲みながら死ぬという決心を変えないし、女も身体を売る危険な生活から足を洗うことはない。あらかじめ決められた破滅的なゴールに向けて、男と女は坂道転げ落ちて行きます。そして、ふたりはそれを望んでいるのです。

 初めてのデートの夜、サラがベンを家に誘います。それに戸惑ったような顔をして難色を示すベン。タクシーの前での押し問答。是非にと言うサラに、ベンは照れくさそうに「セックスに自信がないんだ」と告げます。泣きそうな顔で「そんなこと関係ないのよ。私はベッドで寝て、あなたはソファーで寝て、ふたりで一緒に遅い朝食をたべましょう」と言うサラ。この時のベンの嬉しそうな顔ったらない。ふたりはセックスなしに、心だけで結ばれる。この映画で印象に残る場面のひとつです。

 一緒に生活をはじめたサラとベンだけど、彼女は彼が目の前でどんどん衰弱してゆく様子を見ていられない。酒をやめろとは言わない約束だったけど、それでも「お医者さんに行って」と言わずにいられないサラ。ベンの散漫な自殺を止めることはできないけれど、その結末を少しでも先に延ばしたいという心から出た言葉だったのでしょう。結局、この一言がベンとサラを一時離れ離れにするきっかけになってしまう。そして最後の時、ベンとサラは初めて肉体的に結ばれることになります。それはセックスとかそんなものではなくて、ふたりにとっては何か崇高な儀式のようなものです。

 この後、ひとり残されたサラはどうするんだろう。同じラスベガスを舞台にした『ショーガール』の主人公のように、街を離れて行くような気もするけど……。


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