クリスマス黙示録

1996/11/24 新宿トーア
元宝塚のトップスター天海祐希の映画デビュー作は残念なデキ。
でもロリ・ペティは相変わらずかっこいいなぁ。by K. Hattori



 宝塚のトップスターだった天海祐希の映画デビュー作。行方不明の社長令嬢を探すためアメリカに渡った女刑事が、日本人を標的とした連続爆破事件の犯人を追うことになるサスペンス映画。共演は『ハートブルー』『プリティ・リーグ』『タンク・ガール』で僕をとりこにしたロリ・ペティ。外国人刑事が現地警察との確執の中で犯人を追跡するというストーリーは、逆『ブラック・レイン』状態。日本人を狙った連続殺人という猟奇性は、流行のサイコホラー。犯人と日本人少女の狂気の愛は『ナチュラル・ボーン・キラーズ』を思い出させるし、凝った爆弾の仕掛は『ブローン・アウェイ』の影響か。オリジナリティはほとんどない。

 僕はこの映画が退屈でしょうがなかったんだけど、その最大の理由は、犯人の言う「クリスマス黙示録」という犯行予告の意味がよくわからなかったこと。犯人は最初に犯行声明を出して、タイムリミットを設定。その後、爆弾部品の購入先リストから捜査したアパートで、行方不明だった社長令嬢を発見し、身柄を保護することになる。彼女は犯人の恋人で、犯人は彼女を取り戻すために様々な手を使うことになるんだけど、これで「クリスマス黙示録」もタイムリミットの設定もどこかに消し飛んでしまった。犯人の動機が「恋人奪還」だとすれば、恋人が警察に保護される前の犯行に、いったいどんな動機が存在するんだろうか。タイムリミットになったとき、どんな大惨事が訪れるのか。それがはっきりしないから、刻限を示す時計だけが空しく回ってゆく。

 天海祐希演ずる主人公は、どんな権限で捜査に協力しているのか。彼女はあの歳で警部補なんだから、警察の中ではエリートでしょう。そのエリート女刑事が、日本警察や政界筋からの政治的圧力を背景に、FBIの捜査に介入して来るわけです。当然現場の捜査官からは反発が起きるはず。『ブラック・レイン』のマイケル・ダグラスたちが日本で冷たくあしらわれたように、客分として扱いながらも、捜査の中核にはなかなか加わらせないはずなんだ。そんな中で、ロリ・ペティと天海祐希が個人的に互いを認め合ってゆくドラマにするのが、バディムービーの定石ってもんじゃないのかな。

 普通ならこうするだろうという点で観客を裏切るのは、オリジナルの物語を作るためには必要な作業です。でもその結果が面白くならないのなら、手垢のついた筋立てに甘んじるべきなんだ。ロリ・ペティが射撃の練習をしていたら、天海もその横で射撃の練習をしてほしい。その腕前に感心したペティが「人を撃ったことは?」とたずねると、それはないと答える天海。しょせんは練習所だけの腕かと、半ば馬鹿にするロリ・ペティ。その後ペティが犯人の人質になると、彼女は天海に叫ぶのです。「あなたの腕なら大丈夫。撃ちなさい!」。これが定石。

 定石を裏切るといえば「Macを使う人に悪い人はいない」というハリウッドの最近の傾向を、この映画は見事に裏切ってくれました。犯人はマックユーザーです。


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