大統領のクリスマスツリー

1996/11/24 新宿ピカデリー1
羽田美智子演ずる主人公に生活感がまったくないのが敗因。
『RAMPO』に続く奥山和由監督作品。by K. Hattori



 現代日本映画界を代表するプロデューサー、奥山和由の監督第2弾。デビュー作の『RAMPO』は他人が撮っていた映画を再編集したのに近いから、実質的にはこの映画が本格的なデビュー作になるのかな。この映画では脚本も担当。そいういう意味でも、完全に奥山和由作品と言っていいものだと思うんだけど、広告では「監督脚本:TeamOKUYAMA」なんて弱腰なんだよね。

 ニューヨークを舞台に、日本人姉妹と日本人の男たちが恋愛模様を繰り広げる映画はこれが初めてじゃありません。92年に作られた秋元康の『マンハッタン・キス』は、いしだあゆみと室井滋の姉妹に、柄本明と吉田栄作がからむロマコメで、柄本明はかつていしだの恋人でありながら、その妹室井に愛されるという役柄でした。『大統領のクリスマスツリー』では、余貴美子と羽田美智子が姉妹で、かつて姉の夫であった別所哲也に、羽田が熱を上げているという設定です。なんだか似てるなぁ。

 この映画ではインターネットが小道具として使われていて、物語は羽田演ずる主人公がアメリカ大統領に電子メールを送るところから始まります。この導入部は新しいと思いましたが、いかにも「僕たち最新トレンドに敏感なのさ」という匂いがして嫌味な感じ。ニューヨークについた主人公が義兄の居所を捜そうとすると、ルームメイトのアメリカ人が「それならインターネットで探せよ」と言うのもなんだかなぁ……。ニューヨークにいる人を探すのにインターネットを使うなら、東京からだって探せるぞ。これでは、わざわざニューヨークまで出てきた甲斐がないじゃないか。

 何度も見せられた予告編を、見事に裏切ってくれる展開。映画が終ったとき、頭の中に「羊頭狗肉」という四字熟語が浮かんだぞ。別所哲也の首にマフラーをかけながら「クリスマスプレゼント……」とつぶやく羽田とか、タイムズスクエアのニューイヤーカウントダウンを羽田と別所が見てる場面とか、雪の公園で二人がじゃれあうシーンとか、キスする二人をヘリが旋回しながら撮影している場面とか……。あれはいったいどこに消えた!

 観る側の期待を見事に裏切りつつ、それでも映画の前半は面白く見られました。ところが余貴美子演ずる姉が死んでから、物語は一気に腰砕けになってしまう。この映画を引っ張っていたのは、じつはこの姉だったんですね。なぜ彼女がニューヨークに居るのかという説明も納得できるものだし、生活の描写が一番たっぷり描かれているし、心象描写も最も多い。主人公である羽田なんて、どうやってニューヨークで暮らしているのかという描写が全然ないんですもん。観客は誰も彼女に感情移入出来ないよ。彼女の暮らしている部屋は、ついに最後まで登場しませんでしたしね。

 二人の女に愛される別所哲也も、なんだかよくわからない男だった。彼は売れないピアニストで、どうやって生計を立ててたの? 銀行に戻って、彼は何をどう落とし前つけたんだ? どうも謎めいています。

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