欲望の街
古惑仔T・銅鑼湾の疾風

1997/01/26 シネマ・カリテ1
結局これって香港版のアイドル映画なんじゃなかろうか。
主人公たちが格好よすぎるよ〜。by K. Hattori



 香港映画の男優って、日本の俳優が失ってしまった男臭さやセックスアピールを持っているのが魅力だと思ってたんですが、若手は日本同様、ツルツルしたジャニーズ系の顔になってるんですね。この映画で主人公を演じたチェン・イーキンに、僕はあまり「男」を感じないんだよ。男同士の絆と友情、汗と血にまみれた暴力の世界を描きながら、体臭が感じられないのはどうしてなんだろうな。まるっきり厚みが感じられないぞ。

 まぁこの映画の場合は原作がマンガだし、映画の中でもここぞという場面ではマンガの絵が登場するなど、最初から2次元の世界だから、厚味がなくて薄っぺらでも構わないのかもしれない。それにしても、この映画でここまで執拗にマンガであることを強調するのはなぜなんだろうね。登場するやくざたちがあまりカッコイイから、若者たちへの悪影響を考慮して「これは絵空事なんですよ」「本気にしちゃだめですよ」と言っているようにも見える。映画がマンガ原作であることを誇示する映画としては、『ジャッジ・ドレッド』や『タンク・ガール』があったけど、『欲望の街』はそのどれより執拗に「これはマンガなんだ!」と主張してる。

 監督はウォン・カーウァイ監督の『いますぐ抱きしめたい』や『恋する惑星』で撮影を担当した、アンドリュー・ラウ。さぞや凝りに凝った撮影テクニックを駆使した映画を見せてくれるのかと思わせておいて、案外オーソドックスな絵づくりでした。共通点は乱闘シーンで絵がぶれるところぐらいだけど、こうした絵は、最近どんな映画でも見るようになったからなぁ。この映画では挿入されるシーンやカットの中に、ひどく凡庸なカットがあったりもする。こうして比べると、逆にウォン・カーウァイの非凡さが再確認できますね。

 物語はありがちな青春群像です。数々の事件や試練を乗り越えて、結束を固めてゆく仲間たち。最後は殺された兄貴分の仇討ちをしてハッピーエンド。はっきりいって、あまり魅力がない。むしろ、僕は敵役のカンに魅力を感じた。演じた役者の風貌が、どことなく若い頃の勝新に似てるよね。勝新ほど腹のある芝居はしないんだけどさ。カンがやくざ社会の中でのし上がってゆこうとする野心は、深作欣二の『仁義なき戦い』に登場した若いやくざにつながる、生の人間の匂いがするのです。きれいごとの主人公たちより、むしろこちらの方が本物の人間なんじゃないかって気がするんですね。この映画の中では、ちょっと異彩を放ってました。

 主人公ナンの恋人サイが可愛くて好き。傷ついたナンに料理を作ろうとしてうまく行かず、ナンの友達にかわりに料理してもらって「これは私が作ったってことにしてね」と頼むところが女心だよね。その後、ナンと二人で食堂なんて経営できるのが不思議なんだけどさ。

 手垢のついた古臭い話を、さしてうまくもない役者と演出で描いた映画です。でも出演者たちの若々しさが、この映画を救っている。パート2も観てしまいそう……。


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