truth

1997/02/02 銀座シネパトス2
萩原聖人主演のマスコミドラマだが、内容があまりにもお粗末。
少しはもっともらしく見せる努力をしてほしい。by K. Hattori



 広げた風呂敷の割には、並べてある品物がチャチな映画だ。東南アジアの某国を取材するテレビクルーが、取材という行為を逸脱して紛争の当事者になってゆく様子を描いているのだが、これは始めから脚本に無理がある。

 行方不明になったベテラン自衛官が反政府ゲリラの首領になっているというアイディアは『地獄の黙示録』みたいで面白いんですが、彼がどんな力を使って村人たちの間で神のようなカリスマ性を持ち得たのかという説明は一切ない。こうなると、彼が自衛官である必要もなくなってしまうんだよね。もったいぶって登場した割には、黒幕の正体があまりにもお粗末なのにガッカリ。

 数々のスクープを物にしたベテランジャーナリストの強引で非人間的なやり方に、後からチームに参加した若い男が反発してゆくというのが物語のアウトライン。こうした物語にするなら、最初は先輩記者に心酔していた若者が、徐々に彼に疑問を募らせ、最後にそれが爆発するという形にするのが定石なんじゃないかな。この映画では、古顔の記者は最初から常軌を逸しているし、若い記者も最初からそれに疑念を持ってしまう。正常と異常、傍観者と当事者の間で揺れ動きながら、抜けることの出来ない泥沼のような事態にからめとられてゆく怖さが、ここにはまったくない。

 柄本明は最初に登場したときから胡散臭く、優秀なベテラン記者に見えないという問題もある。萩原聖人の後輩記者も、きれい事ばかりで自分の置かれている立場がわかっていない。萩原がイノセントである必要なんてないんだよ。業界のしきたりや世間の垢にまみれながら、ちょっとずつ汚れ、それが成長だと勘違いし、最後にそうした一切をかなぐり捨てるところがドラマなのになぁ。

 子供に暴力を振るう兵士を見かねて、萩原が兵士に飛び掛かる場面がある。こんなこと、あり得るわけがないと僕は思う。ゲリラに接触を図るため、政府の設置した監視所を乱暴な方法で強行突破する場面もある。こんなことしたら帰国できなくなってしまうだろうに、なぜ彼らはここまでやるのか。その動機が見えないから、これはマンガにもなってない。ジャングルの中でゲリラに襲撃された兵士たちの死体を見て、萩原が動転する場面がある。虫の息の兵士を担いで、萩原はどこに向かおうとしていたんだろうか。他の3人とはぐれて、地理不案内なジャングルから無事に出られるとでも思っているのか。この映画に登場する連中は、みんな行動が無茶苦茶だよ。

 この映画の脚本は、テレビ局の取材の様子を全然取材せずに書いているんでしょう。どこをみても「ひょっとしたら、こんなことがあるかも」という生々しさが微塵もない。唯一面白かったのは、兵士の死体を寄せ集める行為を「レイアウトだ」と表現する部分くらい。この程度の茶目っ気が全体にあれば、もっと面白い映画になったと思うんだけどな。とにかくこの映画は内容が荒唐無稽すぎて、本当らしいところがひとつもなく、観ていても「勝手にやってなさい」という感じでした。


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