バードケージ

1997/02/09 シネマミラノ
ナイトクラブのスターを演じたネイサン・レインは歌がうまいです。
ショーの場面がもっとたくさん見たかった……。by K. Hattori



 オリジナルはパリで大ヒットした舞台劇「ラ・カージュ・オウ・フォール」。この舞台は78年にを映画化され、『Mr.レディ Mr.マダム』になりました。(僕は昔、テレビで見てます。)映画はアメリカにも渡って、今度はミュージカル化され大ヒット。日本でも「ラ・カージュ・オウ・フォール」として、何度か翻訳公演されています。物語の舞台は、きらびやかなオカマの芸が売り物のナイトクラブ。経営者であるゲイカップルの息子が、こともあろうに堅物政治家の娘と婚約し、相手の両親が挨拶にやってきたからさあ大変……、というコメディです。『バードケージ』では、中年のゲイカップルにロビン・ウィリアムズとネイサン・レインが扮し、婚約者の両親にジーン・ハックマンとダイアン・ウィーストがキャスティングされています。

 もともと普通の芝居から始まったものが映画化され、アメリカで舞台ミュージカルになり、それが再度映画化される時にはまたミュージカルでなくなる、というのが興味深い点。ハリウッドではミュージカルが衰退してますから、舞台のヒットミュージカルを映画化する時、ストレートプレイに変更してしまうケースがいくつかある。『バードケージ』もそんな例のひとつでしょう。昨年から今年にかけて『エビータ』や『エブリワン・セイズ・アイ・ラブ・ユー』など、いくつかのミュージカルが公開されて好評のようですから、『バードケージ』もタイミング次第では、ミュージカルとして製作されたかもしれません。ミュージカルファンとしては、ちょっと残念。

 ところでこの映画、コメディのくせにあまり笑えないんですよね。息子が堅物政治家の娘と結婚するとはいえ、自分のセクシャリティを偽らねばならない主人公たちが、かえって気の毒に思えてしまうのです。原作が発表された20年前なら、「オカマが身を偽るのは当然」だと観客は素直に思えた。どんなに隠そうとしてもついつい出てしまうゲイ特有の身振りや話し振りを、観客は指差して笑うことができた。でも20年たつと、そうした認識を観客同士でも共有できなくなっている。少なくとも僕は、自分の父親の性癖や職業を恥じる息子が気に食わなかったし、家から追い出されてしまうネイサン・レインには大いに同情してしまった。

 ゲイカップルを笑えないとなれば、反対に堅物議員の時代錯誤的な言動を笑うしかない。事実、この映画ではそうした方向に笑いの水を向けようと努力してます。でも、そうした努力は成功していない。思えば、原作をミュージカルに仕立てたブロードウェイには知恵があったと思う。ミュージカルは非日常だから、ここに描かれている家族の悲劇も、ファンタジーの衣をまとえるのです。

 せっかくナイトクラブが舞台なのに、ショー場面が少なかったのは不満。ジュディー・ガーランドのコンサート用序曲で舞台に登場し、『イースター・パレード』のガーランドと同じ衣装をつけたレインが、舞台でどんなパフォーマンスを繰り広げているのかが知りたいぞ!


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