クリーン,シェーブン

1997/02/22 シネマ・セレサ
分裂病の男の内面世界をこれでもかと見せまくる映画自体が病んでる。
体調のいい時に観ないとこっちまで病気になりそう。by K. Hattori



 徹底して人を不愉快にさせるために作られているような映画。とがったハサミの先で頭をごりごりえぐるとか、ペンナイフで指の爪をはがすとか、「うひ〜、勘弁してくれよ〜」と叫びたくなるような描写の数々。劇場のイスから逃げたくなっちゃったよ。生爪をはぐシーンなんて、爪をはいだ後の傷口(普段は爪の下になってる部分)にナイフの先を突っ込んで、グリグリかき回すところまで映してますからね。嫌になるなぁ……。

 幼いころに引き離された娘を探す父親と、それを追う刑事の姿を描いています。父親はちょっと(だいぶ)頭がおかしくなってる。どうも精神病院から退院してきたばかりのようです。あ、今気がついたんだけど、「頭のおかしい男が娘に会いに行く」「刑事がそれを追う」という取り合わせは、マイケル・ダグラス主演の『フォーリング・ダウン』と同じだ。もっとも同じなのはそこだけで、両者はぜんぜん雰囲気の違う映画ですけどね。

 映画の冒頭から、主人公の男がおかしいということを観客にたっぷりと見せ、連続少女殺人事件の犯人なのだと思わせる。盗んだ車のトランクには少女の死体らしき荷物。手に入れた1丁のライフル。チューニングのあっていないラジオの音や幻聴のような声に突き動かされながら、男はひとりの少女を執拗に追い求める。観客はそれを追う単独行動の刑事に、主人公の狂気の暴走を止めてくれと願わずにいられない。同じモテルの部屋に相前後して泊まり、部屋の中から刑事が次々と遺留品を発見するくだりはなかなかスリリング。ただ、途中からこの刑事も、なんだか変な男だってことが、観客にもうっすらとわかってくる。ああ、誰か正常な男はいないのか!

 最初からたっぷり怪しい主人公だったんですが、僕は途中から「この男は少女殺人事件には無関係なのでは」と思い始めました。むしろ刑事の方がよほど怪しい。主人公は最後に刑事に撃ち殺されてしまいますが、トランクから出てきたのは死体じゃないし、どこをどう捜しても主人公と少女殺人を結び付ける物的証拠はない。なんだか中途半端なまま、観客は放り出されてしまう。

 主演のピーター・グリーンは『パルプ・フィクション』や『ユージュアル・サスペクツ』にも出演している俳優らしいのですが、ほとんど印象に残ってません。この映画では精神状態が不安定な男を、すごくリアルに演じてました。監督はこの映画がデビュー作のロッジ・ケリガン。94年の映画なんですが、この後どんな映画を作ったのか、あるいは作るのか気になります。今回日本語字幕を担当したのは、特殊翻訳家であり、殺人研究家であり、映画評論家であり、ファビュラス・バーカー・ボーイズでもある柳下毅一郎さん。

 上映時間は80分と短いし、物語がないわけでもないんですが、描写が精神分裂症の再現に思い切り傾いているためか、観ていてすごく疲れます。話そのものより、主人公の症例を見せるのに忙しくなっているような気がする。1度はいいけど、2度は観る気がしない映画です。



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