彼女は最高

1997/02/28 シャンテ・シネ1
『マクマレン兄弟』のエドワード・バーンズの新作は前作同様ホームドラマ。
キャメロン・ディアスが素晴らしい女優ぶりを見せる。by K. Hattori



 『マクマレン兄弟』でデビューした、エドワード・バーンズの監督主演第2弾。マクシーヌ・バーンズやマイク・マッグローンなど、前作にも出演した顔ぶれも再登場。デビュー作の好評ぶりにも慌てず騒がずうろたえず、この新作でもアイリッシュ・アメリカンのホームドラマを見せてくれます。一度成功すると次は必ず大仕掛けの大作が回ってくる監督不足のアメリカ映画界において、こうして自分のテリトリーをきっちりと足固めして行く姿勢にはすごく好感が持てる。

 今回の映画では父親役のジョン・マホーニーや、兄弟を翻弄する妖艶な金髪美女役のキャメロン・ディアスなど、少しずつ配役がグレードアップしてます。この調子で行けば、多分次回作あたりでスター俳優を使った大作映画が回ってくるでしょうね。この監督の力量なら、大物俳優でもきちんと自分の世界の中でホームドラマを演じさせられそうです。まだまだ演出に余力が感じられるんですよね。まだ若い監督なのに、頼もしいよなぁ。

 今回の映画のテーマは、前作に引き続き家族愛、兄弟愛、夫婦の絆、そしてセックスです。『マクマレン兄弟』で信心深い堅物の弟を演じたマイク・マッグローンが、今度は兄の元恋人に熱を上げて妻をないがしろにする男を演じているのが面白い。この弟はモラルなどかなぐり捨てて不倫に走っているのかと思いきや、愛人キャメロン・ディアスに義理立てして妻とのセックスを拒んだり、兄が自分を立会人にせずに電撃結婚したことに腹を立てたりと、彼は彼なりにモラリストなんですよね。

 セックスレスの弟夫婦を巡るエピソードは、この映画の一方の柱。セックスについての夫婦のあけすけな会話や、欲求不満の奥さんがあの手この手で夫を誘惑しようとするくだり、セクシーな下着姿を無視された彼女が洗面所に飛び込むとバイブレーターの音が聞こえてくるシーンなど、どれも気持ちいいくらいにスピーディーなテンポで、下半身の話でありながら上品な仕上がりです。アメリカ人ってこういう夫婦の性生活の問題も、親兄弟に相談したりするんですね。僕はそれにちょっとびっくりしてしまった。ありとあらゆる原因を推測し、最後は夫がゲイなのではとさえ疑う妻でも、なぜか夫の浮気にだけは思い至らないんですね。これは不思議といえば不思議なんですけど、このすれ違いが喜劇を生んでいる。

 兄の元婚約者でありながら今は弟と愛人関係にあり、しかも別の男とも交際中という設定のキャメロン・ディアス。『マスク』ではただのお人形さんみたいな役でしたが、この映画ではしたたかな悪女ぶりを好演。尻軽の淫乱女だと思わせておいて、最後の最後にはひとりの男に操を立てる可愛いところを見せてくれる。彼女のキャラクターが、僕は一番気に入ってます。

 兄弟たちの母親が最後まで顔を出さないのは、古風な仕掛けです。ラストにゲスト出演の大女優がちらりと顔を出すのかとも思ったのですがそれもなし。へんに欲張らない硬派の監督が、僕はますます気に入りました。


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