天空の城ラピュタ

1997/03/09 高田馬場東映パラス
海賊たちの飛行船襲撃からラストまで一気呵成に見せる物語の面白さ。
文句なしに楽しめる一大冒険活劇アニメの傑作だ。by K. Hattori



 話の筋立ては宮崎駿監督のテレビシリーズ「未来少年コナン」と同じなんだよね。コナンがパズーになり、ラナがシータになり、レプカがムスカになっただけ。ダイス船長やモンスリーにあたるのが、海賊ドーラ一家でしょうか。最終戦争後の地球とか、失われた超科学文明というテーマは、『風の谷のナウシカ』にもオーバーラップします。敵役が眠っていた最終戦争の兵器を使って、世界を支配しようとするのも同じです。ギガントも巨神兵もラピュタも、物語で果たす役割や末路がそっくりです。要するに宮崎作品としては新しさのないものなんですが、手慣れた世界だけに語り口によどみがない。スピーディーでテンポのいい展開、エピソードにも無駄がなく、じつにコンパクトにまとまっている。

 いきなり海賊の襲撃ではじまる導入部も素晴らしい。これ以降はほぼノンストップで、アクションに次ぐアクションの連続。リズムといい、テンポといい、活劇の組み立てやアイディアといい、ハリウッド製のアクション映画に負けてません。前半の山場である、バズーとシータ、軍隊、海賊入り乱れての、息詰まる追跡劇。列車を使ったアクションは、構成がじつによく考えられている。ハリウッドのアクション映画が面白いのは、無声映画以来連綿と続く活劇のメソッドを伝統として引き継いでいるからなのですが、『ラピュタ』の列車追跡シーンもまた、古きよき活劇映画の香りがします。オリジナリティとは、伝統に根差してこそ花開くものなんだよね。宮崎駿の才能を、ハリウッドが欲しがるのもわかるよなぁ。

 映画の中にスウィフトの「ガリバー旅行記」が引用されてます。少なくとも18世紀頃までは、この映画の世界と我々の世界は歴史を共有しているのでしょう。映画のオープニングタイトルには、蒸気機関の発達と飛行船の進化が描かれています。この映画の中には、グライダー以外に固定翼の飛行機が登場しない。電気も電灯もラジオもない。雰囲気としては19世紀末から20世紀初頭のイメージでしょうか。もちろん完全に作り込まれたファンタジーの世界ですけどね。

 登場するメカの中では、海賊ドーラ一家が使う、虫みたいにブンブン羽ばたく飛行機がすごく面白い。ドーラ一家に混じって、パズーがシータ救出に向かう場面のスピード感。地面すれすれに飛行する機体の視線で、風景が次々後ろにすっ飛んで行くところは迫力満点。機体からぶら下がったパズーが、要塞の塔から見事シータを救い出す場面の手に汗握る緊張感。これぞ冒険活劇。

 特撮をふんだんに使った劇映画の分野では、ハリウッドに到底太刀打ちできない日本映画ですが、アニメーションではまだまだ個人の才能や感性が通用するのですね。宮崎駿は天才的なアニメ作家ですが、これを「ジャパニメーション」などという枠でくくってしまうことがためらわれるほど、彼の才能は突出しています。宮崎駿という傑出した才能を同時代に得られたことは、世界中の映画ファンにとって、この上もなく幸せなことです。


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