あなたに逢いたくて

1997/04/16 丸の内ピカデリー2
婚約者の妹に恋したバンデラスが双子の弟に扮してデート。
話に不振な点が多いがテンポは最高。by K. Hattori



 アントニオ・バンデラス主演のラブコメディ。婚約した女性の妹に恋をした男が、苦し紛れに双子の弟を捏造したことで巻き起こるドタバタを、軽快なテンポで見せる。姉妹を演じるのは、メラニー・グリフィスとダリル・ハンナ。直情実行型で可愛いタイプの姉と、感情をあまり表に出さないクールなインテリの妹を、それぞれうまく演じてました。メラニー・グリフィスは撮り方を間違えると見るも無残な老醜をさらすのですが、この映画ではそのあたりを(失礼な言い方ですが)上手にごまかしてます。グリフィス、ハンナ、ジョーン・キューザックといった女優たちが、本当に綺麗にチャーミングに撮れてました。撮影はホセ・ルイス・アルカイネ。

 コメディー映画にしては、やや歯切れの悪さが気になりました。バンデラスがずるずるとグリフィスと婚約してしまうくだりも無理があるのだが、何より気になったのは、バンデラスがダリル・ハンナに一目惚れする場面の弱さ。人違いのドタバタに気を取られてしまい、そこでバンデラスが恋に落ちたとは、とても見えなかったのだ。このあたりは物語のテンポがいいので、とくに引っかかることなく映画は先に進んで行くが、恋してはならない人に恋してしまった男の苦しみは、この映画からなかなか伝わってこない。主人公の姉に対する気持ちも、それが単なる好意なのか気まぐれなのか、単に彼が優しいだけなのか、元夫に脅されて逃げられないのか、よくわからない。この映画の中で一番よくわからない人物が、この主人公だから困ってしまいます。

 主人公のひとり二役を、結局誰と誰が知っていて、誰が最後まで知らなかったのかが不明確。ダニー・アイエロは途中から知っていたような気もするけど、知らなかったのかなぁ。ダリル・ハンナは最後の方で気がついたみたいですね。グリフィスはどうなんだろう。このあたりがきれいに解決していないような気がして、ちょっとうっとうしかったな。もっと明快にすべきです。

 脇役たちの好サポートが、この映画の格を一段上げています。なぜだか主人公以外の人物が全員よく描けているのが印象的です。中でも「この画廊の中には紛れもない芸術作品がひとつだけある。それはあんたじゃよ」と画廊で女を口説く、イーライ・ウォーラック扮する主人公の父親は最高。ボケているのか正気なのか定かでない、予測不可能な言動。彼と友人たちが寄ってたかって車を1台ポンコツにしてしまう場面は、ドタバタの極みで劇場内は笑いに包まれました。レストランのソムリエを巡るエピソードも大笑いします。劇中の音楽も素晴らしかった。エンディングで音楽担当のミシェル・マミロが、迫力のあるライブ演奏を披露するのも見物です。

 字幕翻訳者がグリフィスのキャラクターにバカっぽい雰囲気を出したくて工夫したのだとは思うが、あのヘンチクリンな関西弁とも何弁ともとれない言葉づかいは余計です。久しぶりに素敵なグリフィスに出会えたというのに、これでは興醒め。余計な工夫はありがた迷惑です。


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