冒険王

1997/04/22 銀座テアトル西友
冒険好きの考古学者が謎の経箱を日本軍と奪い合う。
要は香港版インディ・ジョーンズです。by K. Hattori



 リー・リンチェイが「冒険王」と呼ばれる考古学者を演じる、香港製インディ・ジョーンズ。1930年代の上海を舞台に、中国国民党と日本軍の間で、無限のパワーを秘める経箱の争奪戦が巻き起こる。こうした設定は露骨に『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』のもじりだが、ぬけぬけと同じ設定をなぞってみせるあたりが笑いを誘います。経箱や真経がどこで何のために作られたものかなど、物語の根幹に関わる部分をすっ飛ばし、ただひたすら「秘密のパワー」の1点だけで押し切る強引さもいい。設定はアーク《聖櫃》の真似だけど、それに匹敵するいわく因縁なんてあろうはずがない。受け継いだのは、箱を開けると中から光が出て周囲の人間を殺す、という部分だけだ。

 こうした意図不明な剽窃設定だけに、序盤こそ『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』風の物語も、中盤以降はやや単調になる。主人公の冒険王と恋に落ちる日本軍の女スパイの存在も、ごみ箱をかぶった抗日新聞の編集長も、物語にダイナミズムを生み出していない。主人公、編集長、日本軍、怪物に姿を変えた盗賊の首領との間で起こる経箱の争奪戦は、ただゴタゴタと騒々しいだけで、血沸き肉躍る冒険活劇には程遠かった。

 細かい設定や小さなエピソードは、そこそこ面白いんですけどね。冒険王が本名を名乗る場面の楽屋落ちには笑ったし、日本領事館のガードマンとして忍者や力士が出てきた時には、腹がよじれそうになりました。新聞編集長が猛烈な速度で活字を拾って行く場面にも、感動したぞ。あれはワープロで打つより、活字を拾った方が早いな。素晴らしい技術だと感心して大笑い。でも結局これらは、目先の変わったその場限りの面白さに過ぎないのです。こうした馬鹿馬鹿しさが、大きな物語にからんでくれば面白かったんだけどな。

 クンフーの達人リー・リンチェイ主演の映画にしては、格闘場面が少なくて物足りない。物語の途中に何度か格闘場面がなくはないけど、やはりクライマックスに「これは!」という大活劇がないと、観客としては納得できないな。地下神殿、燃え盛る松明の火、ついに一対となった経箱と真経、それを奪おうとする怪物……と道具立ては揃っているのだから、ここから映画一番の活劇が始まらなきゃおかしい。狭い空間を逆手にとって、どんな殺陣だって作れそうじゃないか。この地下神殿のセットはずいぶんと安っぽいから、予算がなくて活劇が成立しなかったのかもしれない。飛行機からのダイビングを止めてでも、この部分に金をかけるべきだと思うけどなぁ。

 敵役である日本人の悪辣ぶりがもうひとつ弱い。もっと冷酷で非情で残虐な連中が相手でないと、「経箱は絶対に渡せない」という危機感がわかないよ。登場する日本人をコケにするのはわかるんだけど、あまりコケがあいてでは戦い甲斐がないではないか。最後に日本が後退して怪物が相手になってしまったことから、金城武が「日本は負けるよ」という言葉も意味がなくなった。


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