風のかたみ

1997/05/03 有楽町朝日ホール
(日映協フィルムフェスティバル'97)
最近の日本映画には珍しい平安時代を舞台にした時代劇。
内容は退屈で眠たくてつまらないの一語。by K. Hattori



 すごく退屈な映画。平安後期の京都を舞台にした王朝ロマンだが、着ている物はともかくとして、ドラマがあまりにも弱い。僕は登場人物の誰にも共感できなかった。たぶんキャラクターの描き方がへたくそなんです。それぞれの置かれた状況から、いくらでも人物をふくらませて行くことができるはずなのに、全部が全部ただ台詞をぐちゃぐちゃしゃべるだけの木偶の坊ばかり。唯一面白かったのは、岩下志麻演ずる謎の陰陽師ぐらい。

 ヒロインの萩姫を巡って、田舎出の純朴な次郎、プレイボーイの安麻呂、京を荒らしまわる盗賊不動丸らが血眼になるのだが、彼女は男たちが命を懸けるような値打ちのある女だろうか。気位が高いくせに、初めての男が忘れられずに回りを振り回す、ただの小娘じゃないか。僕ならこんな女はごめんです。彼女がもっと魅力的な女性に描かれていれば、この映画の面白さは今の5倍ぐらいになったでしょうに。これは女優のキャスティングの問題じゃない。人物描写の問題です。恋する女の強さ、哀れさ、愚かさなどがもっと細かく描かれていれば、僕はそうした気持ちに共感できたかもしれない。でもこの映画の萩姫じゃ駄目。無表情で感情が見えないもんね。

 次郎、安麻呂、不動丸のキャスティングは、はっきり言って失敗だったと思う。次郎は田舎出の無骨な若者だけど、内に秘めた情熱と繊細さを持ちあわせ、しかも剣の腕も抜きんでていなければならない。この役をナヨナヨした坂上忍に割り当てるなんて、正気の沙汰ではない。阿部寛演ずる安麻呂は逆に、体格がいいから弱腰のお公家さんに見えないんだよね。永澤俊矢の不動丸は、はまっているようで全然だめだった。この3人をキャスティングするなら、次郎=永澤俊矢、安麻呂=坂上忍、不動丸=阿部寛、という具合に入れ替えた方が面白いはず。僕は永澤俊矢のファンなんだけど、この映画の彼は最近観たどの映画より生彩がなかった。でも彼が次郎をやると、デビュー作の『豪姫』みたいになっちゃうかな。

 キャスティングの失敗という意味では、岸辺一徳も駄目でした。彼の眠そうな目はおっとりしたお公家さんに似合いそうで、じつは全然似合ってないのです。峰岸徹も、芸術家肌の笛職人には見えないよなぁ。そしてキャスト中で最悪なのは、多岐川裕美でしょう。1シーンだけのゲスト出演ですが、彼女の存在でこの映画の世界が完全にバラバラになりました。この映画に登場する女性は、萩姫だけでいいんです。他の女性は余計です。

 思いを寄せる萩姫を山中の隠れ家にさらい、自分に心を開くまで帰さぬと宣言する次郎。挙げ句の果てに、この男は女が自分を愛してくれないと言ってさめざめと泣くのです。馬鹿な奴。女が初めての男を忘れるはずないだろう。とっとと押し倒してやっちゃえよ〜、と乱暴なことを考えてしまったぞ。女も女で、自分の屋敷に無事に帰ったとたんに次郎のことを追いかける。大馬鹿者!

 物語のオチは中国の故事「邯鄲の夢(一炊の夢)」と同じで、新鮮味はない。観てるこっちにあくびが出たぞ。


ホームページ
ホームページへ