妻の恋人、夫の愛人

1997/05/23 東宝第2試写室
ジョン・ボン・ジョヴィ初主演。共演に『髪結いの亭主』のアンナ・ガリエナ。
ロマンチックな大人の恋のミステリー。面白いよ。by K. Hattori



 観ていて思い出したのは、ブライアン・シンガーのデビュー作『パブリック・アクセス』のこと。ふらりとやってきた男が、小さな町の平和をかき乱す様子や、明るく外向的な顔の下に邪悪で残忍なもうひとつの顔が隠されている様子などが、この映画の主人公に似ているのです。男の目的がどこにあるのか、なかなか先が読めないミステリアスな部分も、ふたつの映画の共通項。どちらが面白い映画だったかと問われれば、僕は躊躇せず『妻の恋人、夫の愛人』と答えるでしょう。謎が最後まで謎のまま終るところは同じでも、この映画の場合、それがはぐらかしやごまかしには見えないのです。最初は主人公の男の謎めいた言動で物語を引っ張るものの、途中からはそんなことはどうでもよくなり、周囲の恋模様の方が面白くなってくるからです。

 舞台芸術の製作現場と、そこを舞台にした恋模様を描くバックステージものです。出演者のオーディション風景から物語が始まり、稽古場でのリハーサル、舞台の設置、広報活動、初日の成功と後日談までが描かれます。舞台裏や稽古場のリアルな風景を背景に繰り広げられる恋愛模様は、『ミーティング・ヴィーナス』も思い出しました。舞台作品が徐々に出来上がって行く過程、ミステリアスな主人公の描写、戯曲家の不倫でひとつの家庭が壊れ再構築されて行く様子など、3つのドラマがうまくより合わされた脚本は見事です。

 ロンドンの演劇界を舞台にしたイギリス映画。映画の中に「イギリス人は悲劇を好む」という台詞がありますが、この映画もある意味では悲劇であり、ある意味では喜劇です。皮肉めいた結末は、少なくとも単純なハッピーエンドではない。若い女優と不倫の恋をしている戯曲家が、妻と別れるために、アメリカから来た映画スターのロビンに妻を誘惑するよう依頼します。なんとも不道徳な話ですが、不倫相手である女優の苦しみや、夫の浮気を知ってノイローゼ気味の妻、両者の板ばさみになる戯曲家の苦悩を十分に描いているため、こうした展開にまったく無理を感じさせません。

 この映画には、恋の辛さや恋の喜びがたっぷりと盛り込まれています。夫は若い女優との不倫の恋で、傷つき自信を失い、やつれてゆく。妻はアメリカから来た映画スターとの恋で、自分自身に自信を取り戻し、光り輝くようになる。自分でお膳立てをしておきながら、追い込まれ、破滅して行く戯曲家は哀れであり滑稽です。

 結婚生活を絶対の基準として生き、家庭という枠の中から一歩も出られなかった妻は、恋愛を通して人間として大きく成長して行きます。彼女は夫との愛情を捨てて、映画スターとの恋に新しい価値を見出したわけではない。彼女は恋を通して、新しい、強い自分を発見したのです。「やつは遊び人だ。捨てられるぞ」と警告する夫に、「そしたら別口を探すわ」と言い放つ妻。恋人の不実を薄々は知りながら、いま目の前にある幸せな時間を十分に味わおうとする貪欲さ。う〜ん、女は強いなぁ。


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