スター・ウォーズ
〈特別篇〉

1997/05/31 スカラ座
20年前のオリジナルに大々的に手を入れた新作カットが話題だが、
付け加えた場面が映画全体のバランスを崩した。by K. Hattori



 1作目が製作されてから20年たったのだそうで、それを記念しての〈特別篇〉公開です。予算や技術面での制約から、当時は実現できなかった場面が、最新のデジタル技術の導入で「当初の構想通り」に再現されているのが見ものだそうです。僕はオリジナル版を小学生の時に父親に連れられて劇場で観てますが、残念ながら今回の〈特別篇〉も、その時の体の震えるような興奮までは再現してくれなかった。こんなことなら、オリジナル版をニュープリントにして上映してくれた方がよかった。20年前の素朴な特撮の方が、当時の感動を再生させてくれるには好都合だったかもしれません。僕は追加された場面を観て、なんだか自分の中にあった『スター・ウォーズ』に対する情熱が、急速にしぼんでしまいました。

 ルーカスが黒澤明の『隠し砦の三悪人』にヒントを得て、C3POとR2-D2のコンビを作ったのは有名な話ですが、今回この映画を観て、他にも黒澤映画の影響や引用があちこちにちりばめられているのに気がつきました。例えば、ルークとオビ・ワンが自分たちを乗せる宇宙船を探す場面は『七人の侍』。ルークたちがファルコン号の床下に隠れるのは『用心棒』の引用。チュウバッカを縛り上げて敵の目を欺くのは『椿三十郎』。ハン・ソロが兵士を追いかけると敵陣のど真ん中に出てしまうのは『隠し砦の三悪人』に同じような場面があった。ベイダーがオビ・ワンを待ち構えているのは『椿三十郎』のラストシーンを思い出させます。最後にお姫様から勲章をもらうのも『隠し砦の三悪人』ですね。

 こうした引用を見事に自分の映画の中で消化していることが、ジョージ・ルーカスの才能なんでしょう。ルーカスが黒澤を敬愛していることは周知の事実だけど、単に黒澤映画を引き写すのではなく、そこに自分流の解釈や技術を上乗せしているから、表現が全部ルーカスのものになっています。黒澤の模倣をしながら、それをちゃんと乗り越えている。うまいもんです。

 追加されたシーンは、思ったほど面白くなかった。最後の空中戦の場面などは「おおっ!」と思わせてくれたけど、CGで登場したジャバ・ザ・ハットには違和感があるし、帝国兵士の乗る大きなトカゲみたいな生き物も、足が短いし背は低いし、乗り心地は悪そうでしかも足も遅そう。なんであんなものが登場するのかわからないなぁ。全体に追加カットの多くは、いかにも「ここで追加いたしました」といわんばかりの自己主張をしていて、観ているとかなりウルサイ。逆に手付かずの場面がしょぼく見えてしまって、映画全体のバランスを崩していると思う。要するに「新作場面」を売り物にして、観客を映画館に呼び込もうという魂胆だけが見えました。「魂胆」ではなくて「商魂」かもしれないけど……。

 サウンドトラックも全面的に改訂されたらしいんですが、劇場がTHX仕様じゃないから効果がわからない。ところで巻頭の20世紀フォックスのロゴは、なぜ古いものをそのまま使っているんでしょう?


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