もののけ姫

1997/06/18 東宝第一試写室
宮崎駿の最新作は神と人との戦いを描いた壮大な時代劇ファンタジー。
『ナウシカ』で提示したテーマを13年かけて再構成した。by K. Hattori



 宮崎駿の最新作は、2時間13分という、ジブリアニメ中最長尺の大作になった。黒澤明の『七人の侍』に匹敵する娯楽時代劇大作を作りたいという宮崎監督の熱意が、フィルムのひとこまひとこまからにじみ出してます。これで若い経験のない監督だと、意欲だけが空回りしてフィルムに定着する技術が追いつかなくなってしまうのですが、ベテランの宮崎監督は、自分の思いをかなり忠実にフィルムに仕上げていると思う。ただし、あまりいろいろと盛り込み過ぎて、やや窮屈な印象を受けなくもない。物語にまったく遊びがなく、正面から力だけで押してこられるような圧迫感を感じます。今までの宮崎アニメには、どこかで必ずホッと息を抜けるような場面があったものですが、この映画にはそれがない。映画を観終わって、ぐったりと疲れました。上映時間そのものは『天空の城ラピュタ』より少し長い程度なんですが、観客に与える疲労は過去のどの作品より大きいと思います。

 『風の谷のナウシカ』の延長にあるテーマを扱っている映画です。人間は自分たちが生きて行くために、自然を壊し、自分たちのために作り替えて行く。それを「自然破壊」や「環境汚染」という、人間側を悪とした単純な言葉で置き換えることはできない。『ナウシカ』に登場した腐海は地球を浄化する巨大な自然のプロセスではあるが、それが放つ毒は人間を殺してしまう。必然的に、人間は自然と戦いながら生きることを余儀なくされる。『もののけ姫』に登場するタタラ集団は、山を削り森の木を切り倒す自然破壊者たちだが、彼らはそうすることでしか生きて行けない者たちだ。だが森に住む荒ぶる神たちは、そんな人間も容赦することなく殺す。腐海から王蟲が人間にめがけて突進してくるように、神聖な森からは猪たちが大挙して押し寄せてくる。ふたつの絵柄がほとんど同じ印象を与えるのは、それが同じテーマを扱っているからに他ならないからです。

 『ナウシカ』には巨神兵を甦らせて腐海を焼き払おうと考えるクシャナ王女が登場しますが、それが形を変えると、最新の武装で神を殺してでも森を切り開こうというエボシ御前になります。彼女たちにとって、自然は人間の知恵と力とで乗り越え征服するものであって、共存し共に生きるものではない。自然を征服しようとする人間と、そんな人間を飲み込もうとする自然。その間でなんとか両者が共存できる道を探そうとするアシタカの姿は、腐海との共存を訴えるナウシカの姿に重なります。じつはこの映画、タイトルは『もののけ姫』ですが、もののけ姫ことサンの影は薄い。彼女は赤ん坊の時に森に捨てられ、犬神モロに育てられた少女です。彼女が人間としての立場と、森の神々の代弁者としての立場の間で揺れ動いてくれると、彼女の存在がもっと大きくなったと思うのですが……。

 アシタカはタタラ者の村に残り、サンは森に帰って行く。自然と人間との共存について、宮崎駿はまだ結論を出せずにいる。簡単に結論が出る問題ではないけどね。


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